とおくはなれた物語
役者もマスク着用・ソーシャルディスタンスな短編劇
役者もソーシャルディスタンスな短編劇-
とおくはなれた物語

◎登場人物
 口裂け女の花子さん
 地縛霊の石田さん
 隣の部屋の只之さん


    2020年4月。福島県福島市にある口裂け女の花子さんが住むアパートの部屋。玄関のドアを背に右手に炊事場、左手に風呂場とトイレ、扉を挟んで狭めの部屋。しかし、部屋には生活感がなく、かわりに炊事場に布団が敷いてある。部屋には地縛霊の石田さんがいる。花子さんは、石田さんが見えるが、薄気味悪いため部屋では暮らさず、炊事場近くで生活している。


石田   「皆さんは、口裂け女を知っていますか?真っ赤なワンピース、赤いヒール、口元を隠す大きなマスクをつけた若い女性が、道端で「私、綺麗?」と尋ねてくる。戸惑いながらきれいと答えると、これでも?とそのマスクを外す。するとその口は耳元まで大きく裂けていて・・・。福島市の清水小学校では、口裂け女のために集団下校も行われるほどでした。そんな口裂け女、2020年4月現在とてつもなく困っています。深刻なマスク不足です。マスクがない口裂け女は口裂け女と呼べるでしょうか?もしよかったら、どなたか、マスクをお譲りいただけないでしょうか?メールにてご連絡いただければ幸いです。 Kuchisakegirl11@gmail.com 」


    夜19時30分頃。隣の部屋に住む只之が、ドア越しに花子に話しかける。この物語は基本的には、ドアを挟んだ二人と、遠い位置にいる石田さん、花子さんの会話で、ソーシャルディスタンスを取りながら展開していく


只之   「花子さん、マスク、新しいのつくったのでノブにかけときますね」
花子   「ありがとうございます」
只之   「いいえ、趣味ですから」
花子   「今度なにかお礼を」
只之   「いいですって。あ、コンビニ行ってきますけど、なにか欲しいのあります?」
花子   「いえ」
只之   「べっこう飴とかお好きですか?」
花子   「べっこう飴ですか?」
只之   「ええ、口裂け女はお好きだって」
花子   「あ・・・ああ、」
只之   「セブンじゃ売ってないか」
花子   「あの、」
只之   「冗談ですよ! 花子さんってお酒飲めます?」
花子   「あ、はい」
只之   「わかりましたー、それじゃ」
花子   「えっと、行ってらっしゃい」
只之   「行ってきます」


    花子、ノブにかかった只之の手作りマスクを手にして


花子   「・・・大きい!ねえ、石田さん!」
石田   「なんだよ」
花子   「マスク、大きくなったの!! これなら、うん、ちゃんと・・・隠れる・・・」
石田   「俺のおかげだな」
花子   「石田さん!私まだ怒ってますからね!」
石田   「なんでだよ」
花子   「勝手に口裂け女だなんてネットに書き込んで」
石田   「助けてやったんだろ!あんたがマスクないと死ぬって言ってたから」
花子   「本当に困ってたの!どこにも行けないし、」
石田   「なら感謝しろよ!!」
花子   「でも口裂け女って書くことないでしょ!」
石田   「シャープのも買えなかったんだから仕方ねえだろ!」
花子   「仕方無くない」
石田   「なら、国から届くの待ってろよ」
花子   「あんなちっちゃいのじゃ無理!見えちゃう!!」
石田   「ストックしとけよ!口裂け女なら!!」
花子   「ちょうど買い足さなきゃなって思ってたの!!」
石田   「いっつもそうだろ、お前は」
花子   「誰もこんなことなるなんて思わないじゃん」
石田   「だいたい使い捨て以外も持ってろよ」
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