ネコと和解せよ
猫と和解せよ

【登場人物】
・月星 三十代。女。作家。
・たっくん 四十代。男。峰岸の同棲相手。
・後田 二十代後半。男。編集者。

2DKのアパートのダイニング。上はブラウス、下はスゥエットでテーブルにノートパソコンを開いて居る女(月星)。マイク付きイヤホンを付け、ネットミーティングをしている。

月星 …え、ここ?…ああ、なるほど。コナミコマンドはちょっと古かったですかね。まあ削ってもいいんですけど。…はい…ああ…あ、じゃあ184184で「イヤヨイヤヨ」とか、ほらこう恥ずかしがる感じで…はあそうですか…えーと、じゃあここは、…考えておきます。…あ、はい、大丈夫、間に合います。…これで全部ですか?…わかりました。はい、じゃあ。(ネットミーティングからログアウトしようとする)え?…はあ…え、なんでですか?…えーと、それはネットじゃ駄目なんですか?…うち散らかってるんで、せめてファミレスとかで…じゃあ、会社行きますよ。そっちに…いや困ります。ちょっと、なんなんですか?なんでうちなんですか?…とにかく困ります。来ないで下さい。ファミレスなら行きますから時間決まったら連絡下さい。じゃ。(ログアウトしてしまう)…なんなのよ。もう。

月星、ため息。と四つん這いの男(たっくん)が入ってくる。たっくん、月星の元まで来ると月星の手に頭を擦り付ける。月星、しばしたっくんの首筋や頭を撫でている。

たっくん にゃあ。
月星 ああ、たっくんお腹空いたの?そんな時間か。

月星、パソコンを閉じて立ち上がるとキッチンに行き冷蔵庫から牛乳を出すとシリアルを2つ用意。テーブルに戻るとそれを向かい合わせに置く。たっくん、四つん這いでテーブルに向かうとシリアルの匂いを嗅ぎ、食べ始める。月星、それを見ていたが自分も向かいの椅子に座りスプーンで食べ始める。

月星 …なんか編集さんがさ、どうしてもうちに来たいって言ってさ。なんか大事な話だから直接でないとって言うんだけど、ファミレスじゃ駄目だって。家に来たいって。おかしくない?なにも家に来ることないじゃん。このご時世にさ。密になっちゃうじゃん。ね。…何考えてんだ、ホント。
たっくん にゃあ。
月星 (たっくんを見る)…あ、たっくん今日は結構食べたね。もっと食べたい?

たっくん、右手で顔を拭うと、テーブルを降り、部屋の角に行き、毛づくろい的な動きをする。

月星 ああ、ね。…やっぱり猫用のカリカリの方が好きなのか。でも、身体は人間なんだから人間の餌の方がバランスいいだろうし。

月星、自分の分のシリアルを平らげると、食器をシンクに持って行き洗う。洗い終えると手を拭き、たっくんの所に来る。たっくん、月星を見上げ、足元にすり寄る。月星しゃがむとたっくんの首筋や背中を撫でる。たっくん、撫でられる内にゴロゴロと喉を鳴らしながら香箱を組む。

月星 (撫でながら)どうしたらいいんだろうね…。

と、チャイムが鳴る。ビクッとなる月星。たっくん、ドアの方に向かい臨戦態勢をとってふーっと唸る。月星、ドアホンのモニターのところに行く。モニターに写っていたのはマスクをした担当編集の後田。

月星 え。
後田 月星センセー、すみません、来ちゃいましたー。

ドアホンまた鳴る。

後田 センセー、いますよね。開けて下さーい。センセー。
月星 う、後田さん、来ないで下さいって言いましたよね、さっき。
後田 ええ。僕も、伺いますって言いましたよね。
月星 困ります。
後田 ですよね。
月星 はい。
後田 でも来ちゃったんで開けて下さい。
月星 あの…とにかく駄目です。ちょっと行った所にファミレスありますよね。そこに行ってて下さい。すぐ出ますから。
後田 だから、さっきも言いましたけど、それじゃ駄目なんですよ。
月星 なぜ?
後田 編集長命令です。ご自宅で直接会って話せって言われてるんで。
月星 何を。
後田 ここで話したら、たぶんセンセー明日からここに住めなくなる様な話です。
月星 え。
後田 します?ここで?
月星 …な、なんの話ですか?
後田 たっくんさん。
月星 あ、あの…すぐ開けますから、ちょ、ちょっと待って下さい。

月星、たっくんを宥めながら、奥の部屋に連れて行く。

月星 たっくんちょっと、うん、大丈夫だからね。こっちへ。大丈夫大丈夫。たっくん落ち着いて、静かにしててね。

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