箱の教室
箱の教室

【登場人物】
・藤田 教師。数少ない永続的な狂猫病抗体を持つ人。
・神田 生徒の一人。動画作成や配信などを行っている。
・越乃 生徒の一人。歴史が好き。
・後藤 生徒の一人。ゲームが趣味でeスポーツの選手。
・中原 生徒の一人。プログラマで稼いでいる。
・マールテン 生徒の一人。感染学に興味がある。
・男1&男2 学校の用務員。

ナレーション 狂猫病ウイルスの変異のスピードにワクチンや特効薬の開発が追い付かない状態が続く中、ゼロリスクを目指す人々は、より確実に密を避け感染を防ぐための“箱”を開発し、その中で生活するようになった。
それから二十年。多くの人が箱の中で暮らしほとんどのものがオンライン化された時代、「ふれあい欠乏症」と呼ばれる奇病が、箱の中で暮らす人を脅かし始める。その名の通り、人とのふれあいの欠乏が原因で脳が退化する病。これを克服するため廃止されていた「学校」が復活することとなった。

 教室。人一人がかがめば入れるくらいの大きさの箱が4つと、奥にホワイトボードが置いてある。チャイムが鳴る。藤田、タブレットを手に入ってくる。タブレットからはひっきりなしに通知音。藤田、ホワイトボードの前に立ち、タブレットをしばし眺める。

藤田 …おーい、もう朝礼の時間だぞー。

 藤田のタブレットから通知音、さらに通知音。と、台車に載せられた箱がガラガラと入ってくると、他の箱と同じように並ぶ。通知音。

藤田 おいおい神田、自信満々に「滑り込みセーフ」って書いてるけど、間に合ってないぞ―。朝のチャイムの5分前には着席しないと。

 と、タブレットから通知音に次ぐ通知音。しばらく聞き流す藤田。

藤田 はいはい、先生オフラインなんで、そんなに連投されても読みきれませーん。

 タブレットの通知音少なくなり、止まる。

藤田 はい、じゃあ日直は…越乃か。お願いしまーす。

 タブレットから通知音、藤田気をつけ。通知音、藤田深々と頭を下げる。通知音、藤田、タブレットを見る。

藤田 じゃあ、出席を取ります。(通知音)…そうだな。後藤の言う通り。5人が出席してるのは見てわかる。でも、これもふれあいだから。(通知音に次ぐ通知音)はいはい、だから文句を連投されてもわかんないから。ね。はい、じゃ神田(通知音)、越乃(通知音)、後藤…後藤?…

 藤田、後藤の箱に近づくと、後藤の箱を軽く叩く。と、通知音に次ぐ通知音。

藤田 わ、ごめんごめん。返事が返ってこなかったからさ。(通知音、通知音)うん、わかるよ。でも、決まりだから。(通知音、通知音)はい次、中原(通知音)…今日のはBotじゃないよね?(通知音)うん、プログラミングは一応自由時間にやってくれよ?するのは良いけど、、マールテン(通知音)はい。あの、さ、マールテン。すまないんだけど、ここでの返事はこっちの言葉で書いてもらっていいかな?先生、君の国の言葉、読めないんだよね。(通知音)はい、じゃ連絡事項ですが、今日は午後から、秋にある文化祭の準備委員会があります。え~と、実行委員は神田だったよな。忘れずに出席しろよ。(通知音)遅刻するなよ。(通知音)はい。それと、うちのクラスでは使う人いないと思うけど、体育館の補修工事が今日から始まります。危ないので近づかないように。(通知音、通知音)ん。体育館て…ほら、校庭の向う側にある(通知音)…校庭ってほら、そこの窓から見える広い運動場(通知音)…運動場って、運動を…身体を動かすための場所…だったんだよ、あそこは、前は。体育館もな。(通知音、通知音)…まあそうだけど、いつかさ、解禁になるかもしれないじゃない。全面的にさ、そういうのが。その時のためだよ。(通知音に次ぐ通知音)はーい、だから連投は読めないから。

 と、チャイム。

藤田 はい、じゃあ朝礼終わり。算数の宿題をまだ送信してなかった人は今送信して。あと、一時間目は歴史だからその準備もね。(通知音)ん?越乃か、どうした?

 藤田、越乃の箱の所に行く。

藤田 (タブレットを見つつ)ああ、この問題な。これは直角を含まない三角形を、二つの直角三角形に分けるのが味噌だな。そうすれば三平方の定理を使って底辺から垂直に伸びる高さが出るから、底辺と高さを使えば普通の三角形と同じように面積が出るわけ。(通知音)まあこれみたいに、角度がどこにもなくて長さしか書いてない図形の面積を出す問題の時は、直角三角形を作れないか探すと解けたりするよ。(通知音)

 と、チャイム。

藤田 ああ、じゃあ、授業始めます。日直。

 タブレットから通知音、藤田気をつけ。通知音、藤田深々と頭を下げる。通知音、藤田、タブレットを見る。

藤田 えー、前回はモンゴル帝国の始まりのところをやったので、今日はその後の展開をやりましょう。

 藤田、タブレットを操作するとモンゴル帝国の地図が表示される。

藤田 チンギス・ハンによって作られた大モンゴル帝国ですが、二代皇帝オゴタイから五代皇帝フビライの間に最大版図に達します。(通知音)ん?…うん、越乃いい所に気がついたな。その通り。実はモンゴル帝国は、チンギス・ハンの死後に分裂していくんだ。ロシアの南西部や東ヨーロッパにあったキプチャク・ハン国、中央アジアにあったチャガタイ・ハン国とオゴタイ・ハン国、西アジアにあるイル・ハン国、そしてモンゴル高原や東アジアを統治する元。一応元の皇帝フビライ・ハンがモンゴル帝国の皇帝ということになっていたけど、イル・ハン国以外はそれを認めず実際には対立状態にあって(通知音に次ぐ通知音)後藤、後藤、なに?(通知音)ああ、うん今の話は教科書に書いてなかったね、ごめんごめん。

 藤田、タブレットを操作する。地図が消える。

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