君の名前の由来
 

語り  「渋谷利明(しぶやとしあき)というのが僕の名前。だけど利明は、僕の本当の名前ではなかった」

  舞台の上を歩くなど動きを見せる。

語り  「産後すぐに妻を失った父は男手ひとつで子どもを育てていたけれど、その愛息子も一歳の誕生日を迎える前にこの世を去った」

  赤ちゃんを抱えている仕草。
  その後、手を広げるなど子どもがいなくなった表現。

語り  「喪失感を埋めるように父は僕をこの家に迎え入れ、あろうことか本物の息子と同じ名前を僕につけた」

  再び赤ちゃんを抱いて見つめる。

育ての父「利明という字はね、俺の明(あきら)と妻の利子(としこ)から一文字ずつとってつけたんだ。利用の利に明るいと書く、君の名前だよ」

  正面に向き直る。

語り  「だけど僕は、彼ら二人から生まれたわけではない。利明という名前は、本来、僕が受け取るものではなかったのだ。だから僕は二人目、偽物の利明」

  床に座る。(役が変わる毎に座る位置を変えたり身体の向きを変えたり)

利明  「本当の家族の元へ帰ります。利明という名前は、本物の彼に返します」
育ての父「お前だって本物の利明だろう。血は繋がっていないが家族、俺の息子だ」
利明  「父さんの息子は僕じゃない。名前ですら僕のものではなかった。今までの人生も名前も全て捨てて僕は、本当の自分を探しに行きます」

  立ち上がって歩き出す。(動きを見せる)

語り  「そうして僕は家を飛び出した。会社も辞めた、他人の名前で働いていたのだから。貯金があったことが幸いだけれど、よく考えたらこれも本物の利明が受け取るはずだった報酬……まぁ、少しくらい僕に恩恵があってもいいか。本当の僕を見つけるまでの間もう少しだけ、利明の名前を借りておこう」

 動きを止め、正面を向く。

語り  「まず、本物の両親と本当の名前を探そうと思った。それを見つけるのは案外簡単なことで、利明の父が教えてくれた」

  座って話をする。

利明  「知り合いの、息子さん?」
育ての父「あぁ……育てることができないのに子どもを引き取ると約束し、どうしようか悩んでいた時に俺の顔が思い浮かんだらしい。もう一度息子に会いたいと、落ち込んで堕落した生活を送っていた俺に、子どもを譲ると話を持ちかけてきた」
利明  「それで母の妊娠中に、僕を養子に出す決意を……」
育ての父「母親の行方はわからないが、父親の連絡先は知っている。だが……本当に、会いに行くのか?」

  正面を向く。

語り  「迷うことなんてない。本当の父の居場所を知った僕はすぐに家を飛び出した。この家に戻ることは二度とない、その覚悟で……探すんだ、本当の自分を。僕は僕として本当の人生を生きる。僕が何者であるかを、突き止めるために」


  暗転。


  アパート。
  扉にある部屋番号を見つめ、手に持っているメモと照らし合わせる。

利明  「大久保(おおくぼ)、それが僕の本当の苗字。大小の大(だい)の漢字に、久しいとか永久の久(く)、保健室の保(ほ)、その3文字で大久保」

  玄関のベルを押す。
SE ベルの音
SE 扉の開く音

利明  「あっ……はじめまして。いや、お久しぶりです。父……いえ、利明の父から連絡があったと思いますが、あなたの本当の息子です」
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