生首旅行
        生首旅行



    登場人物
    ☆全ての役を一人が演じる
女    相部凛空(あいべ りく)
黒右   黒いベール――同僚(男)
黒左   黒いベール――同僚(女)
警察   トレンチコート――警察官
老婆   半纏――老婆



    幕開け
    舞台上には横幅二メートル、奥行き五〇センチ高さ四二センチの黒箱
    黒箱を様々なものに見立てながら演技は進む
    舞台には様々な衣装が飾られている
    喪服、トレンチコート、半纏、作務衣、白衣

    ○葬儀場
    ◆黒箱=棺
    喪服の女が中央に立っている



女    「本日は、お忙しい中、また足元の悪い中、足を運んでいただき、誠にありがとうございます。夫の生前中には、皆様に、格別のご厚情をたまわり、本当にありがとうございます。突然のことにも関わらず、こうして皆様方がお集りくださいまして、夫も喜んでいることでしょう。夫は、とても仕事熱心で、誰よりも率先して現場で働いていたと聞きます。この事故においても、人を助けた結果起きた出来事でございます。「どれほど気を付けていても事故は起きるものだ」と夫は生前から口癖のように言っておりました。「事故のせいで誰かが死んでも、それを責めてはいけない。必要なのは、二度と同じ事故を起こさないことだ」と。ですので、皆様方においては、どうか、どうか同じ事故を起こさぬよう。夫の死を無駄にされませんようお願い申し上げます。三十二歳。まだこれからという年齢でございます。ここに相部創(あいべつくる)がいたことをどうか忘れぬようお願いいたします。心ばかりでございますが、別室に酒肴の用意をいたしました。どうぞ今しばらくお付き合いいただき、(☆)故人の在りし日の思い出話などを聞かせ頂ければ幸いです」



    女の言葉の途中(☆)から徐々に明かりが消えていく
    薄暗く明かりが点くと、女は黒いベールで顔を隠し黒箱に座っている
    ◆黒箱=椅子
    隣通しで会話するように、女は左右に首を振りながら話す



黒右   「なあ……なあ」

黒左   「えっ、ちょっと待って……なに?」

黒右   「さっきの人って、あれか、相部っちゃんの奥さん」

黒左   「そうだよ。事務所によく来てたけど。え、知らなかったの?」

黒右   「悪かったな。現場に出ずっぱりだったからな」

黒左   「相部君にお弁当届に来たり、みんなに差し入れしてくれたりしてくれたんだよ。ほら、いつも食べてるでしょ。「差し入れでーす」ってシゲさんが持ってってた」

黒右   「ええっ、あのお菓子、相部っちゃんの奥さんが持ってきてたの」

黒左   「そうだよ。へぇ。知らないで食べてたんだ」

黒右   「知らないよ。言われてないもん。相部っちゃんも何も言わなかったし」

黒左   「みんなに気を遣わせたくなかったんでしょ。本当、そういうところあるよね、相部君」

黒右   「ああ、いい奴だったよ」

黒左   「どの口が言う。散々いびってたくせに」
1/9

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。

ホーム