辻くんと白石さん
     懐中電灯の光がゆらゆら揺れている。
     もうひとつ懐中電灯のあかりが灯り、ゆらゆら揺れていたが、ふと、もともと揺れていたあかりの方を向くと、人の顔が照らし出される。

白石 まぶしい!
辻  あ!(光をそらす)

     白石、辻の顔に懐中電灯のあかりを当てる。

白石 (恥ずかしそうに)どうも。

     辻、白石にあかりを当てる。

辻  (恥ずかしそうに)どうも……えっ? 白石さんですよね。
白石 はい。
辻  白石さんですよね。
白石 はい。
辻  なんでここにいるんですか。
白石 あ……ここ地元なんです。
辻  えっ? いや、白石さん標準語やから絶対関東やと思ってたんですけど。
白石 違う違う、あの時は上京してて、今はここ……ここにいるの。(と、墓の前に供えてあったローソクに火をともす)
辻  すいません。
白石 えっ?
辻  それ。(と、マッチを指さす)
白石 ああ。

     辻、マッチを借りて、自分の墓に供えてあったローソクに火をつける。

辻  やっぱりこの方が落ち着きますね。
白石 そうね。
辻  (白石の墓を見やり)あー……白石家。
白石 はい。(おなじく)あー……辻家。
辻  はい。どの辺りに住んでたんですか?
白石 私? 私、富ヶ丘に住んでたの。
辻  富ヶ丘?
白石 うん。
辻  千本桜まっすぐ行った富ヶ丘?
白石 そうそう。

     二人笑う。

辻  俺の実家、駅前です。藤ヶ丘の。
白石 えっ、どこ?
辻  桜書店という本屋です。わかりますか。
白石 わかります。「忠なるかな……」……かな?
辻  「忠なるかな忠。信なるかな信」桜書店です。
白石 なんだ、桜書店の人だったんだ。
辻  一人息子です。
白石 なのに、どうして東京に?
辻  いや、あのう、やりたい事があったんです。
白石 どんな?
辻  演劇です。
白石 演劇?
辻  はい。
白石 本屋さんは継がずに?
辻  あんな店、もう潰れるだけじゃないですか。
白石 そんな事ないでしょう?
辻  だって国道の方にでかい本屋できましたから。
白石 あー。
辻  誰も行きませんよ、あんな店。
白石 そっかー、大変だね、本屋さんも。
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