贈り物は☆流星
「贈り物は☆流星」

登場人物
ミカ  タカシの妹。高校二年生。制服。
タカシ ユリエの兄。警察官。機動隊員。巡査。十九歳。私服。
アカネ ユリエの同級生。制服。
サヤカ タカシの婚約者。警察官。キャリア組。警部補。二十二歳。
工藤  婦人警官。制服。十九歳。
松川  ユリエとアカネの担任。二十四歳。

一場 教室。
上手から、松川に連れられてタカシが登場。
松川、下手まで行って上手の方を向いて立つ。タカシ、松川の前に机と椅子を積み上げてバリケードを作る。
バリケードができた後、松川に赤い糸の端を持たせる。そのまま上手に行き、ピンと糸を張る。

タカシ ああ、もう少し顔の右側に…。

松川、顔の右側に糸の端を動かす。

タカシ それでは、糸の端を壁の下の方につけて下さい。

    松川糸の端を持ったまま、一度下手に退場。舞台には糸だけが出ている。タカシ、うずくまって糸を自分の顔より上に持って行ってピンと張る。

タカシ もういいです。ありがとうございました。

松川、糸の端を放す。タカシ、立ち上がって糸を巻く。

松川  本当にやるつもりですか?
タカシ わかりません。しかし、ご協力ありがとうございました。
松川  わたしはこんなことに協力したくありませんでした!
タカシ それでも自分はあなたに感謝しています。ありがとうございました…。

暗転。

二場
一場と同じ状態の、下手のバリケードの後ろにアカネが座らされている。そのすぐ後ろにミカがでかい包丁を持って立っている。
上手にはタカシと松川が立っている。

タカシ ミカ…、今ならまだ間に合う。包丁を捨てて出て来い!
ミカ  アニキ。ずいぶん遅かったね。メールを送ってからかなり時間が経ってるよ。
タカシ とにかく! アカネさんをすぐに放せ! 今ならまだ間に合う! 
ミカ  兄貴ひとりだけ? 他の警察官は?
タカシ 通報していない。今なら、犯罪者にならずにすむかもしれないって言ってるんだ! 校内の生徒指導だけですむかもしれない…。
ミカ  あたしもなめられたもんだね…。
アカネ ミカ…、放してよう…。

    ミカ、ポケットからスマフォを取り出す。

ミカ  もしもし警察ですか? いま、人質籠城事件が起きています。
タカシ やめろーっ! 先生、なんとか説得してください!
松川  そうですよミカさん。今なら間に合います! 学校が責任持って刑事事件にしないようにします。このままではあなたは、警察権力の餌食にされてしまいます。警官たちは、あなたを撃つことになんの躊躇もしません。警察は行政機関です。これがどういうことかわかりますか? 時の政権に隷属するということです。つまり警官なんて、人間のクズがなるものです。こんな人間のクズどもを英雄のように語るのはおかしい。警官は仕事でやっているのです。それは、無償の行動をしているならば英雄として扱ってもいいでしょうが、お金をもらってやっている。つまり殉職も給料のうちだと考えるべきです。警官の仕事は命がけだといいますが、たとえばとび職だって命がけです。しかしとび職が仕事のために死んだとしても英雄扱いされたりしない。殉職した警官のみを英雄扱いするのは、職業差別というものです。警官を英雄視するのは、政治権力にこびているだけのことです。私は今年の夏休みに、基地反対のデモに参加してきました。そこで機動隊は、「ここは立入禁止だ。排除する」とだけ伝えて、無抵抗の座り込みをしている人々に手を掛けて、無理矢理どかせたんです! わたしは警官の一人にこう言いました。「おまえの子供を学校に行かれなくしてやる」って!
タカシ 先生、やっていただきたいのは、演説ではなく説得です…。

    サイレンの音。上手からサヤカと工藤が登場。サヤカはライフルを背負っている。できればスナイパーライフル。なければアサルトライフル。二人はタカシのそばに立つ。

タカシ 間に合わなかったか…。
サヤカ 現状を報告しなさい!
タカシ 見ての通りです。女子高生の一人が刃物を持って、同級生を人質に、教室に立てこもっています!
ミカ  (松川に)なんなのあんたは! マジメに説得するつもりがあるの! 「おまえの子供を学校に行かれなくしてやる」って! なんでそういうことを警官の妹に言うわけ?
アカネ 先生…、ミカを刺激しないでよう…。
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