あなたは何でできている(旧題 砂糖でできた丘)
砂糖でできた丘

登場人物
緒方恭輔    男子高校生
藤崎美奈子   女子高校生 
田中勇気    男子高校生 
由比藤 遥   女子高校生
斉藤彩加    女子高校生
鈴木春菜    女子高校生
中村みずほ   女子高校生
担任
ウェートレス
   

開幕

第一場
   舞台中央にピンスポット。スポットライトの中に椅子に座った藤崎の姿が浮かぶ。背景には二場の道具がうっすらと見えていても良い。
天の声「おまえは罪によって作られている。おまえの心も体もたくさんの血と犠牲とでできている。多くの人が死んだからこそ、おまえは今呼吸をすることができる。おまえはそのことを、片時も忘れてはならない」
   天の声がしている間、藤崎は俯いたまま聞いている。スポットが消える。

暗転

第二場
閉店後のホテルのレストラン。
下手側が出入り口。
緒方、藤崎、田中、由比藤、斉藤、鈴木、中村、担任、板付き。
担任のみ立っていて、他の人物は全てテーブルの前の椅子に座っている。テーブルのいちばん下手側に藤崎、その上手側に由比藤、斉藤、鈴木、中村、田中の順に座る。一番上手側に緒方。緒方のみ制服。田中のみ垢抜けたような私服。他の人物はジャージかスウェット。
由比藤「それでは修学旅行第二日目の事後研修を始めます」
担任 「(藤崎に向かって言う)顔色悪いぞ。まだ調子が悪いんだったら部屋に帰って休め。班長会議の司会なら由比藤に任せればいい」
藤崎 「いえ…、先生。ぜひこの機会にみんなに言っておきたいことがあります」
由比藤「それでは班長は今日の反省を言って下さい」
斉藤 「この沖縄に来て、戦争の悲惨さがよくわかりました」
鈴木 「戦争で死んだ人たちがとてもかわいそうでした」
中村 「あたしたちと同じくらいの女の子たちが国のために看護士にさせられていたのがショックでした」
田中 「みんな似たようなことしか言わんな」
緒方 「そりゃそうだろう」
由比藤「ガマの中で死んだ人がとてもかわいそうでした」
田中 「ガマって何だっけ」
担任 「ちゃんと人の話を聞いとけ。沖縄に点在している洞窟のことだ。太平洋戦争の末期、日本軍の部隊と住民たちがこのガマに隠れた。そしてここで多くの民間人が…死んだ」
緒方 「ガマとは何か、勉強になったな」
由比藤「では最後に委員長の藤崎さん、どうぞ」
藤崎 「(立ち上がって全員に向かって言う)今日はみなさんにご迷惑をかけてすみませんでした。だけど貴重な経験が出来たと思います。
あの…ガマに入った時、何かを感じました。    
わたしには見えたんです。
本土が勝手に始めた戦争のせいで、傷つき、尊厳を奪われ、死んでいかなければならなかった人たちの姿が…。
わたしはあの中に入るまで、ここにはきっといろんな人たちの悲しみ、悔しさ、何よりも恐怖がひしめきあっているのだろうと覚悟をしていました。
   だけど心のどこかで『霊なんかいるわけがない』と思っていた。思ってしまったんです。      
あの人たちが姿を現したのは、そんなわたしたちを戒めるためだったに違いありません…」
緒方を除く全員が藤崎の方を見る。
緒方のみ客席側を見ている。
田中 「ずいぶんユニークな意見が出たぞ」
藤崎 「(田中を無視して)幸いわたしはガマを出た後すぐにお祓いをしてもらったためそれ以上怖い目には遭いませんでしたが、あそこでもっともっと恐ろしい目にあった人たちがたくさんいるんです。だからわたしたちは、どこにいてもどんな時でも、そういう人たちのことを決して忘れてはいけません。わたしはそのことを学習しました。みんなもそれを学習しなくてはいけません。そうでなければあなたたちもわたしのように、あの人たちの姿を見なくてはならないことになるでしょう」
沈黙。由比藤を除く女子たちが気味悪そうに藤崎を見ている。
緒方 「(座ったまま反論)バカか、おまえは。戦跡は心霊スポットじゃねえ」
由比藤「あんたの成績で美奈子を馬鹿だとか言えると思ってんの?」
緒方 「(由比藤にかまわずに)あのなあ藤崎、おまえはあの洞窟に入って霊が見えたような気がしただけだ。それで塩をかけてくれたあの人、名前は知らんが現地の人だろ。あの人は霊を払ったようなつもりになっただけだ。それでおまえは霊を払ってもらったつもりになっただけだ」
田中がニヤニヤ笑いながら緒方と藤崎を交互に見る。
斉藤 「(小声で田中に)こんな気持ち悪い話を聞いてよく笑えるね」
田中 「藤崎に食ってかかる男子がいるのが面白い」
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