聖夜のレンタルビデオ屋
   『聖夜のレンタルビデオ屋』


店員「あざーしたー……ちっ、なんだあいつら。ラブロマンスなんか借りていきやがって。だいたい男の方、下心が見え見えなんだよ。いい雰囲気になってあわよくば……って。あーあ、なんでオレはせっかくのクリスマスにレンタルビデオ屋なんかでバイトしてんだか」
店長「嫌なら辞めていいんだぞ。バイト代は出ないけどな」
店員「バイト代出るなら辞めてもいいんすけどね」
店長「お前クビにしてやろうか」
店員「冗談っすよ、店長。あ、レジの横にマムシ汁置いといたら売れんるじゃないっすか」
店長「バカなことばっかり言ってないで仕事しろ」
店員「うーっす」
店長「じゃあ俺配達行ってくるわ。店番任せたぞ」
店員「りょうかーい……へっ、行ったか。こんな小さな店ろくに客なんか来やしねえさ。よーし、サボるぞ」
店長「ああ、それと」
店員「よーし、仕事するゾっ」
店長「いい心がけだな。カウンター下の籠に棚に戻してないやつあるからそれも片しといてくれ」
店員「うっす……はあ、しゃーない、やるか。洋画、邦画、洋画、邦画、洋画、邦画、AV……おおっ」
客「あのー」
店員「いらっしゃいませー。なんかご用っすか」
客「ビデオを借りたいんです」
店員「でしょうね。レンタルビデオ屋でお茶したい人はいなんでしょう。それで?」
客「なにかオススメはありますか」
店員「ジャンルは」
客「お任せします」
店員「一人で見るんすか」
客「二人で見ます」
店員「へー……誰と」
客「えっと、恋人と」
店員「けっ……どこで」
客「僕の家で」
店員「はー……性なる夜っすね」
客「え?」
店員「いや、なんでもないっす……スプラッタでいいっすか。一組のカップルが洋館に迷い込んで彼氏が死ぬ話」
客「いえ、そういうのはちょっと……最後くらい素敵な思い出で終わりたいので」
店員「最後?」
客「……僕たち別れるんです、今日」
店員「へえ、それまたどうして? ……あっ、そこらへんテキトーに座って下さい。お茶淹れますんで」
客「いや、そんな」
店員「緑茶と麦茶どっちがいいっすか」
客「いいですよ」
店員「早く」
客「……じゃあ緑茶で」
店員「あちゃー、今麦茶しかないんすよ」
客「……」
店員「はいどうぞ」
客「どうも」
店員「それで、どうして別れちゃうんすか」
客「どうしてというか……あっ、これ緑茶じゃないですか」
店員「なんか奥の方にありました。続けて」
客「あっ、はい。どうしてというか、違和感だったんですよ」
店員「違和感?」
客「確かにお互いに好き合ってました。でもね、恋人とかそういうんじゃなかったんですよ」
店員「そういうんじゃなかった?」
客「付き合うってことになって、今までの距離感がわからなくなったというか」
店員「無理してたんだ」
客「そういうことだと思います」
店員「付き合うことになったときも周りがあれこれ言ったんじゃないっすか」
客「まあ、ええ……よくおわかりですね」
店員「なんとなくっす。いますよね、くっつけたがる人」
客「ええ。それで、なんだか二人とも疲れちゃって」
店員「別れようってなったわけっすか」
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