名残惜しくも僕らここまで

名残惜しくも僕らここまで



赤音(あかね)
響(ひびき)

心臓が脈打つ音。ドクンドクン。
その音が次第に扉を強くノックする音へと変わる。
明転。
舞台中央の閉まっている赤い扉を挟んで、両側に赤音と響。
赤音がものすごい勢いで扉をノックしている。

響    だから!

響、どうにか扉を開けようとしている。

響    違うって言ってるじゃん!
赤音   じゃあ、どうして開けてくれないの!?
響    だから、開かないんだよ
赤音   開けてよ!
響    俺が開けたくなくて開けないんじゃないだよ
赤音   やっぱり私のこと嫌いになったんだ!
響    嫌いじゃないって、何度も言ってるだろ…
赤音   じゃあ、好き?
響    ああ。好きだよ、好き
赤音   それなら、開けて!
響    開かないんだよ!
赤音   嫌い!

ため息をつく響。

響    …なあ、赤音。本当に開かないんだよ。嘘じゃない。押しても引いても、鍵がかかっているみたい。でも、鍵穴も何もない。開けたくても開けられないんだ
赤音   でも、こっちからも開けられないもん。響の方から開けるしかないわよ。ねえ、開けて?
響    出来たらとっくに開けてるよ。何なんだよこの扉は…
赤音   扉もそうだけど、ここってどこなの?なんでこんなところにいるの?
響    そうだよ。どこだよここ。確か俺たち、一緒に歩いてたよな…

街の雑踏。足音や話し声、信号機の音、車の走る音。
赤音と響が喋っている後ろでしばらく鳴り続ける。

赤音   デートの日だった。楽しみにしてたのに、響、遅れてくるんだもん
響    それは悪かったって
赤音   ねえ、なんで遅れたの?
響    別に、これといった理由はないけどさ…
赤音   なにそれ。私とのデートなんてどうでもいいってこと?
響    そうは言ってないだろ
赤音   …今日、なんの日かわかる?
響    えっと。なんだっけ
赤音   いいよ。響はいつもそう
響    だから、違うって
赤音   響は私のこと嫌いなんだ

クラクションの音。
信号のメロディが流れ始める。

響    なんでそうなるんだよ
赤音   告白したのも私。デートに誘うのも私。手をつなぐのも私。私ばっかり。私ばっかりドキドキしてて、響の気持ちがもうわからないよ
響    俺は赤音のこと、ちゃんと好きだよ
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