6年後 −(続)空飛ぶ伝言板−

 『6年後』 ― (続)空飛ぶ伝言板 ―               作:瀧澤豚琴

     CAST
        健 太 (駅前で路上ライブをやっている、自称シンガーソングライター。)
        陽 子 (地元の大学付属病院で、看護師として勤務二年目。)
        恵   (下北沢で少し人気が出てきた劇団の女優として四年目を迎える。)
        明日香 (都内の大学を卒業し、埼玉県の私立学校で教員となり一年目。)


SCENE(1)

  都内ではあるが、郊外にほど近い私鉄沿線のとある駅。ストリートミュージシャンが一人、生ギターで歌っている。
  健太である。立ち止まって聞いている人が数人いるらしく、曲が終わるとパラパラと拍手が聞こえる。
  

健 太  どうもありがとう。・・・今の曲は、僕のオリジナルで、○○○○でした。(誰かを見つけて)あ、今晩は。今帰り? お疲れ様。
     いつもありがとね。え〜っと〜、次の曲も、オリジナルです。あ、今の曲もこれから歌う曲も、このCDに入ってますので、よかったら・・・・
     あ、買ってくれる? ありがとう。5百円です。(別の人に)え? ホントですか? ありがとうございます! 
    (また別の人に)あ、はい、五百円です。(さらに別の人に)あ、どうも。はい。・・・・・
    (みんなに)え〜、本ッ当うれしいです。ありがとうございます。はい! これからもがんばって曲作ります! では、次の曲歌います!

  健太の生ギターのイントロの内に、場面が変わる。
 

SCENE(2)

  別の街。住宅街の一角にある古びたアパート。歩いてきた明日香と陽子が、ある一室の前で立ち止まる。

陽 子  あ、灯りついてる!
明日香  良かった! 帰ってたんだね。
陽 子  メグ、びっくりするかな?
明日香  あたしたちが見てたの、気付いてなきゃいいんだけど・・・
陽 子  ちょっと見ただけじゃ、あたしたちって分からないかも。
明日香  そうだね。卒業式以来だもんね。
陽 子  何年ぶり? 5年とか?
明日香  そんなもんかな? でも、あたしから見たら、陽子は変わってない気がするけど。
陽 子  あたしたちは何度も会ってるからでしょ! じゃ、いい? 行くよ!(と、扉をノックする。)
恵   (中から声のみ)空いてるよ〜。
陽・明 (一瞬顔を見合わせてためらうが、扉を開けながら)お邪魔しま〜す。

SCENE(3)

 扉があくと、恵の部屋が展開する。
 部屋の壁に、かつての無人駅の改札口の一部やポスターなどがディスプレイされている。

恵    え? え! 陽子? 明日香? え〜っ? どうしたの?
陽 子  へへ〜、実はね〜・・・・・
恵    あ、今日、見に来てくれてありがとうね!
明日香  なんだ、わかってたの?
恵    そりゃわかるよ〜。あんな小っちゃいハコなんだから・・・
陽 子  なぁ〜んだ、残念。
恵    残念って、こっちこそ残念だったよ。急いでメーク落として会いに行ったのにさ、二人ともいないんだもん。
明日香  だって、折角だからサプライズしようって、陽子が・・・
恵    いや、驚いたよ〜、よくここ分かったね。
陽 子  劇団の人に聞いちゃった、住所。
明日香  それよりさ、取り敢えず、上がっていい?
恵    あ、ごめんごめん。どうぞ。なんか、随分買い込んだみたいね。
陽 子  メグと一緒に飲みたくってさ、いっぱい買っちゃった。
明日香  勝手にごめんね。明日もあるんでしょ? 大丈夫?
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