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３バイト

３バイト

　　　　　登場人物
水谷　…　バイトの男性。
中野　…　バイトの女性。
油浜（あぶらはま）　…　バイトの先輩。三人のなかでは一番の古株。

　　生活感の無いアパートの一室（もう、あるのは座るための箱３つとか、そんなものでいい。それすら無くてもいい）。
　　オープニングＢＧＭのなかで油浜がひとり、やる気が無さそうに何らかの動作を繰り返している。ずっとその動作を繰り返している。
　　しばらくして中野が登場。油浜に会釈して、適当なところに荷物を下ろす。そして油浜とつかず離れずの位置で、油浜とは違った何らかの動作を始める。二人でひたすら、その動作を繰り返している。
　　ＢＧＭがフェードアウト。ノックの音。扉の開く音。

中野　　おはよう、水谷くん。

　　　水谷が登場。油浜の姿を認めて一瞬動きが止まるが、すぐに動き出して荷物を適当なところに　
　　　腰を下ろす。

水谷　　すみません。俺、遅刻しちゃいましたね。

　　油浜が水谷を一瞥するが、何も返答せずに動作を継続。

中野　　大丈夫。私もさっき来て始めたばっかりだから。
水谷　　…あの、中野さん、ちょっと。
中野　　？

　　何か言いたげな水谷に、中野は動作を中断して近づく。

水谷　　…油浜さんって、今日シフト入ってたっけ？
中野　　あ、うん…今日はお休みの予定だったけど、気が変わって出勤したんだって。
水谷　　ふうん…
中野　　仕事熱心、なのかな。
水谷　　そうは見えないんだけど。
中野　　まあ、でも、二人より三人のほうが仕事は捗るから。今日もよろしくね。
水谷　　うん。お願いします。

　　定位置に戻る中野と、等間隔くらいの位置に立つ水谷。そして油浜とも中野とも違う何らかの動作を始める。油浜はヤル気なく、中野は淡々と、水谷はそこはかとなく気合が入っている。三人ともに雰囲気の違いはあるが、動作そのものは変わることなく延々と繰り返している。しばらくこのままで、大変にシュールな光景になってほしい。

中野　　…水谷くん、ちょっと変えた？
水谷　　あ、わかる？今まで腕の振りが少し鈍くて、角度も浅いんじゃないかなって思ったからさ。肘を気持ち上げ気味にして、振るときを速くって意識してみたんだ。
中野　　そっか。なんだか、速くなったなあって思ったの。
水谷　　遅いよりは速いほうが回数もこなせるからね。正確性を犠牲にするってわけじゃないけれど、速度を優先してやってみようと思って。まだ、いろいろ試してる段階だけど。

　　水谷は説明しながら、ちょっと力を入れて大げさに動く。それを見ていた油浜が
　　短く笑う。明らかにバカにしたような笑い方。思わず固まる水谷と中野。

中野　　…ちゃんと考えてできるのって、すごいと思うよ。

　　中野、気を取り直すように自分の動作を再開する。水谷も再開するが、先ほどのようには動かなくなり、途中で止めて油浜をじっと見る。そんな視線を意に介さず、やる気の無い動作を続ける油浜。

水谷　　…油浜さん。
油浜　　ん？
水谷　　油浜さんも、この前見たときと動作が変わってるみたいですけど。
油浜　　あ、そうなの？

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