お化け屋敷の裏側
『お化け屋敷の裏側』


<登場人物>

・霊田ユウ
・香川ムネノリ
・青山キクノ
・大江イブキ
・那須野タマコ
・香川マサヒト
・坂田


第一場面

《7月31日》
来客用のソファーに腰かけているユウ。タマコはお茶を出し、ユウに一声かけてから奥に引っ込む。落ち着かない様子のユウ。そこに白衣を羽織ったムネノリが現れる。

香川 「(颯爽とソファーに腰掛けながら)いやいや〜、お待たせした! ちょっと準備に手間取ったもので」
霊田 「(突然やって来たムネノリに驚く。緊張が高まる)」
香川 「えっと、君がこの病院で働きたいって子だよね?」
霊田 「あ、はい。そうです。(立ち上がり)よろしくお願いします!」
香川 「俺はここの責任者の香川ムネノリです、よろしく。さて、まずは座って。色々とここのことを説明しないといけないのだが、その前に……。(書類を取り出し)これの記入をしてもらえるかな」
霊田 「はい」
香川 「わざわざ遠い所まで来てもらって、申し訳ない。迷わなかったかい?」
霊田 「一応、大丈夫でした」
香川 「なら良かった。……自然の中で療養生活。聞こえはいいけど、だからって山の中に作るってのもね。不便なこと、この上ない」
霊田 「はあ」
香川 「(独り言っぽく)医者の考える事はさっぱりわからない」

ムネノリのもとへノートパソコンを持ったタマコがやって来る。パソコンの画面を見せて、ムネノリに耳打ち。その様子が気になりながらも、記入を続けるユウ。

香川 「(OKといったハンドサインをしながら)計画通りに」
那須野「りょーかいです」

再び奥に引っ込むタマコ。その表情はどこか楽し気だ。

霊田 「書けました」
香川 「(紙を受け取り)えっと……、『レイダ ユウ』さん?」
霊田 「『タマダ ユウ』です。幽霊の霊に田んぼの田で『タマダ』って読むんです。……変な名前ですよね(自嘲気味)」
香川 「(ユウの様子に気付いて)……。いや、いい名前じゃないか」
霊田 「え?」
香川 「幽霊の霊か……。ここにぴったりな名前だと思わないかい?」
霊田 「そうですか?」
香川 「ああ! だって幽霊だぞ! この日ノ本最恐(自称)のお化け屋敷『讃岐病院』は君のようなスタッフを求めていたんだ!」
霊田 「な、名前だけですよ! 苗字だけ判断されるのは――」
香川 「君がここで働くことになったのは、まさに運命だな!」
霊田 「大袈裟です!」
香川 「なに、心配御無用。うちは幽霊だろうと、化け物だろうと大歓迎さ!」
霊田 「別に私、幽霊じゃないですよ!」
香川 「……。それもそうか。これは失敬。しかし、君のことを歓迎する気持ちに何一つとして偽りはない。新しい仲間が増えることになって、皆、ワクワクしているんだ」
霊田 「あの、期待に応えられるよう、精一杯頑張ります。」
香川 「そんなに緊張する必要はないよ。俺たちも、一年前にこのお化け屋敷を始めたんだ。初めはわからないことばかりだったし、今でも手探りの毎日さ。一緒に楽しもうじゃないか(手を差し出す)」
霊田 「(手を握り返して)よろしくお願いします」
香川 「それと、ここではぜひ院長と呼んでくれ」
霊田 「院長、ですか?」
香川 「何事も形から、だろ。この白衣もその一環だよ。お化け屋敷は雰囲気が大事だから」
霊田 「はあ」
香川 「この施設も、数年前に実際に病院として建てられたものを利用しているんだよ。だから、病室からオペ室にいたるまで、限りなく実物に近い構造でね」
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