教師カビカビ物語
     少女の部屋。     
     上手の壁に窓がある。     
     その手前に机。     
     カーテンが閉めてあり薄暗い。     
     下手がこの部屋に入る扉になっている。     
     中央にベッドがあり、誰かが頭から布団を被って動かないでいる。     
     とても静かな空間。     
     突然、ダンッ、と一発、猟銃がはなたれた音。     
     と同時に、布団の人物がベッドの上に立ち上がる。     
     それはメガネをしたアナウンサー。     
     マイク片手に話し出す。     
          
アナウンサー 十二時になりました。お昼のニュースです。本日八時過ぎ、岡山県××市
     の村で、山からおりてきた猪が、登校中の小学生を襲いました。猪はすぐに近
     所の住人の手によって射殺されました。小学生は病院に運ばれましたが、軽傷
     でした。     
          
     アナウンサーは、メガネをはずし、マイクを置き少女になると、ベッドの前で
     床の上に膝を抱えて動かなくなる。     
     静寂。     
     やがて遠くから学校のチャイムの音。     
     キーンコーンカーンコーン     
     キーンコーンカーンコーン     
     少女は耳に指を入れたり出したり動かし、「アー」と声を出して、外の世界の
     音を排除する。     
          
井野の声 ええ、本当にお構いなく、お仕事にいかれて下さい。こちらの方が突然で。い
     えいえ、こちらも仕事ですから。いや、仕事だからとかじゃないんですけど。
     ええ。ええ。じゃあ、ちょっと顔見させて貰って。いえいえ、こちらこそ。い
     ってらっしゃいませ。はい。ごめんくださいませ。     
          
     扉から教師の井野が顔を出す。     
     まだ、「アー」とやっている小森。     
          
井野  小森君。コーモリ君。     
少女  アーーーー。     
井野  (同じように)アーーー。     
少女  アーーー。     
井野  (『アー』の声と合わせるように)コォモォリィクゥゥゥン。
    (声に合わせロボ ットのような動きで)コォモォリィクゥゥゥン。     
少女(小森) ア?(と指を抜くが誰だか分からない)は?     
井野  ヤダナ。分からないかな。ほら生物を 教えてる。     
小森  (怖がって叫ぼうとする)ママ。ママ。     
          
     井野、慌てて小森の口をおさえて、焦って、助詞が抜ける。まるでインディ
     アン口調のようになる。     
          
井野  ママ、今、仕事行った。僕、上げて貰った。ママ、行くけど、僕、居ていいって
    ママ言った。                            
          
     井野、口からゆっくりと手を離すが、またいつ騒ぎ出すか不安で、手はそのま
     ま宣誓をするように肩のあたりに浮かんでいる。     
     小森、ジッと井野を見つめながらゆっくりと同じように手を挙げる。     
          
井野  (そのまま頷き)ウソツカナイ。     
小森  あ、先生。     
井野  (そのまま頷き)センセイ。     
小森  (安心して手を下ろす)誰かと思った。     
井野  (も手を下ろし)井野ね。     
小森  え。     
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