夏の残響
『夏の残響』

登場人物

夏希(なつき・女)

由美(ゆみ・女)





     夕暮れ時
     強い雨が降っている

     通り雨のようにも見えるが、しばらく止む気配はない

     寂れた商店の軒先で、夏希が雨宿りをしている
     離れた場所、同じく商店の軒先で男が長椅子に腰かけている
     帽子を目深に被り、表情は見えない
     一点を見つめ、微動だにしない
     何かを偲んでいるようにも見える

     由美が小走りにやってくる
     全身が濡れ、不快感を露わにしている
     しばらく雨模様をうかがった後、馴れ馴れしく夏希に近付く

由美 降りだしちゃったねぇ。
夏希 あ、ですね。さっきまで晴れてたのに。
由美 もうびしょ濡れだよ、最悪。

     夏希、曖昧に笑う

由美 この辺の人?
夏希 あ、はい。すぐ近くの、マンションです。
由美 そうなんだ。
夏希 はい、あれです。(と、指差す)
由美 あ、あれ? ホント、すぐ近くだね。目の前なのに足止め食っちゃって、残念
   だね。
夏希 ですね。あっ、しまった……。
由美 どうしたの?
夏希 洗濯物……。
由美 干しっぱなしか。
夏希 はい。まぁ、いいか。
由美 いいの?
夏希 今さら慌てても仕方ないですし。
由美 まぁ、そうだね。

     由美、タバコを取り出して喫う
     周りに灰皿はない

     煙が雨空にたゆたう
     夏希、それをじっと見つめる

由美 ん、喫う?(と、タバコを差し出す)
夏希 あ、いえ、私、喫いません。タバコ苦手で。
由美 ふーん、そっかぁ。

     夏希、曖昧に笑う
     視線は相変わらず、立ち昇る紫煙に
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