さよなら、春
1.

静かな舞台。
上から糸で様々なものが吊るされている。

ボクがやってくると、糸にかけられた上着をとり着て、また去る。

みんながやってきて、ボクと同じように上着を着て、また去っていく。

制服姿のボクがやってくる。
制服を脱ぎ、糸にかけようとしたところで手を止める。

ボク   着なれた服を脱ぐ。新しい服を着る。
    知らない場所に行き、知らない人と会う。
    これからのボクの物語。
    さよなら、これまでのボクの物語。さよなら?

ボクがやってくる。

ボク   さよなら、をするにはちょっとの勇気が必要だった。
    なぜなら、ボクは怖かったから。

ボク   ボクはさよならできないボクとさよならした。


2.

ボクがやってくる。
上からつるされた糸電話の一つにしゃべりかける。

ボク   もしもし?

糸電話から「もしもし」と聞こえてくる。

嬉しくなって、他の糸電話にも「もしもし?」としゃべりかけると、同じように「もしもし」と返ってくる。

一際高い位置に吊るされた糸電話を見つける。
箱を重ねその上に乗り、糸電話に手を伸ばす。
嬉しそうに、しゃべりかける。

ボク   もしもし?

キミ   私はこの道を行くよ

突然のことに驚くボク。
別の糸電話のもとまで行ってもう一度「もしもし?」と問いかける。
そこでも返ってくるのは、旅立ちを決意した仲間の言葉。

ボク、もう一度一番高くの糸電話のところへと戻ってくる

ボク   もしもし?

ボク   そろそろ出かけよう。

糸電話を持ったボクが現れる。

ボク   もしもし?

ボク   もうずいぶんとここにいるだろう。
    ここは思い出でいっぱいだけど。
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