山椒魚
『山椒魚』
 
 登場人物
 
 山椒魚
 
 渡り鳥
 
 蛙
 
 
 
 
  1
 
      じめじめとした湿地帯
 
      山椒魚の住処である岩屋がある
      湿地帯を抜けた先には、海が一望できる
 
      岩屋から山椒魚がやってくる
      海を眺めている
 
      渡り鳥がやってくる
 
 渡り鳥 やあ、こんにちは。
 山椒魚 こんにちは、久しぶりだね。
 渡り鳥 うん、長い旅だった。ずっと南の方へ行ってたんだ。
 山椒魚 どうだった。
 渡り鳥 随分と暑かった。とても綺麗な湖を見つけてね。そこで水浴びをした。
 山椒魚 湖。
 渡り鳥 海よりも小さいものさ。ずっと小さい。
 山椒魚 池みたいなものか。
 渡り鳥 そんなところだよ。西日が差して、水面が輝いていた。
 山椒魚 想像できないな。
 渡り鳥 そうかい。君は、どう過ごしていた。
 山椒魚 僕は、海を見ていたよ。君の帰りを待っていた。
 渡り鳥 何か、変わったことはなかったかい。
 山椒魚 ここのところ、海は穏やかなものだよ。怒りもしないし、悲しみもない。ただ
     揺れてるだけだ。
 渡り鳥 それは良いことだよ。海は怒ると怖い。
 山椒魚 うん、よく知ってる。
 渡り鳥 私は空に住処があるからいいけど、君は大変だろう。
 山椒魚 そうだね。でも、いざとなったら遠くへ逃げるよ。
 渡り鳥 へえ、初耳だな。遠くにも住処があるのかい。
 山椒魚 川の近くに、友だちがいるんだ。
 渡り鳥 そうなのかい。
 山椒魚 うん。そこへかくまってもらうんだ。
 渡り鳥 良い友だちだね。
 山椒魚 僕は、友だちにめぐまれた。
 渡り鳥 大事にした方がいい。ひとりで生きるのは、寂しいからね。
 山椒魚 ひとりでは、生きていけないかな。
 渡り鳥 そんなことはない。ひとりでも立派に生きていけるやつらはいるさ。ただ、ひ
     とりだと、いつか心が死んでしまう。私たちは話したり、触れあうことで、心
     をかよわせているんだよ。ひとりじゃあ、できないだろう。
 山椒魚 そうだね。
 渡り鳥 私たちは、冬になれば大勢の仲間と旅をする。みんな、大切な仲間さ。彼らと
     心をかよわすのは、とても心地いい。
 山椒魚 うらやましいな。僕も飛べたらいいのに。
 渡り鳥 飛ぶ必要なんかないよ。私たちは、たまたまそういう風に生まれただけだ。実
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