あらすじ
時代は1920年代、日本の近代文学に大きな影響を与えた、一人の小説家がいた。
膨大な知識と斬新な解釈によって数多くの名作を織りなしていったその小説家は、35歳という若さで自殺し、この世を去る。
ある男の元に、その小説家から、十数ページの短編が送り付けられる。
「いつ、どのような媒体で発表するかはすべて君に任せる」という言葉を残して。
それは小説家が死の寸前に男に託した遺作だった。
男は小説家の、高校時代の友人だった。
だが、高校を卒業したのちは、ずっと疎遠状態が続いていた間柄だった。
「・・・なぜ、僕に遺作を託したのだろう?」
―冷静さを保ったまま狂気に陥っていく小説家
小説家の描く物語を愛し、彼に尽くす女編集者
小説家の死後、行方しれずとなった彼の妻―
遺作を取り巻く人間たちの物語は、狂気を孕んだまま、その扉を重く閉ざしている。