『空き巣道』
『空き巣道』(あきすどう)

★石川タダミチ。
 俺の祖先はよぉ、かの有名な石川ごえ・・・あ、聞いてない。

★42。厄年・・・(あ、余計!)

いやいや、あのさ、おまわりさん、
この際ぶっちゃけて言うけどさ、
俺も、空き巣なんて仕事を何十年もしてるワケだけどさ、
いや、ちょっとぶっちゃけすぎだけどさ、
でもよ、
その空き巣歴うん十年の俺でさえもこんなこと初めてだよ。

部屋に入ったら、もう、とっ散らかってて、荒らし放題。
すぐに「被った」ってのは分かったよ。
だから、同業者とだよ。空き巣の先客がいたんだよ。
同じ日に同じ家にさ。
いや、被るのは初めてじゃないんだよ。何度かあったよ、空き巣歴うん十年のうちにさ。
入ってみると「こりゃーどうも誰かが仕事した後だな」って。

でも今回は、もうヒデー散らかってた。
ぐっちゃぐっちゃ。足の踏み場もないくらいに。

「入った家のタンスだーなんだひっくり返して、散らかして物を盗っていく」
そんな仕事する空き巣野郎は、おれは大っ嫌いだね!な!
そんなのは俺の空き巣道に反するね。
空き巣道だよ。
要するにパリスィー(ポリシー)だよ。

★え、調書とってるからちゃんと発音してくれって?
 『ポァリスィー』? え、違う?
 ・・・。あ、もういい?

盗むならこっそり。空き巣に入ったのも気づかれないくらいさりげなくやるのよ。

何事にも『道』はあるものだよ?

俺は別に贅沢したくてこんな仕事してるんじゃないんだよ。
汗水たらして真面目に働いてらっしゃる人たちから、根こそぎ奪うようなマネは嫌いだね。
その家の奥さんが「だんなのお小遣い減らせばいいか」くらいで埋め合わせれる金額で。
まぁ確かに、数こなさなきゃならないけどね。

それが、部屋中ひっくり返して散らかして、余計な迷惑かけるようなヤツはダメだ。
ホント気にいらねぇ。同業者として恥ずかしい。
でも俺は、その荒らされた部屋に、出くわしちまったもんだから仕方がない。
黙って見過ごせないと思ったね。

で、オレは始めたわけよ。掃除を。
一大、大掃除よ。

もう、とりあえずもうちょっとマシな状態にしようと、まずは床から。
服があっちこっちに広がってるから、ガサーっと拾い集めて、一個一個アイロンかけて畳んでタンスにしまって、あんまり汚れてるのは洗濯籠の中に放り込んで。
床に落ちてるカップ麺とか食料は袋に詰めて棚に載せて。マンガや雑誌は積み上げたり本棚にしまったり。
読んでないよ、確かに漫画や雑誌を片付けてると、あれこれ読みたくなっちゃうもんだけどさ、読んでたら掃除終わらないじゃない。


で、ざっとだけど綺麗になったし、こんなもんでいいかなって思ったんだけど、
目に付いちまったんだ。
汚れた服で洗濯籠が一杯になってるのが。さっき俺が片付けて放り込んだヤツなんだけどさ。
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