やみつき地中海
やみつき地中海


       谷口雄二  ─ 「やみつき地中海」の詐欺を行おうとする男
       平井あずさ ─ 「やみつき地中海」の詐欺を思いついた女
       中村香織  ─ 「やみつき地中海」を買いたい女
       吉岡晋平  ─ 「やみつき地中海」を売りたい男
       キャスター ─ ニュースキャスター(モブ)


     第1場(谷口、平井)

  電話の音
  谷口、電話に出る

谷口  なんだよ。
平井  やっと出た。何回かけたと思ってんの!
谷口  要件は何だ、って聞いてんだよ。仕事の話だろうな?
平井  もちろんじゃない。仕事よ仕事。
谷口  どうせまたケチな話だろ。儲けにもならない。
平井  何言ってんの、大きい仕事よ。そうね……うまく行けば百万、ってとこかしら。
谷口  ……本当だろうな。
平井  ええ。だからすぐ来て。一刻を争う状況なの。
谷口  わかった……大したこと無かったら承知しねぇぞ。
平井  大丈夫よ、いいから急いでね。じゃ。

  平井、電話を切る

谷口  ……ったく。


  谷口、平井のところへ行く

平井  遅い!
谷口  バカ野郎、タクシー使って来たんだぞ。
平井  あっそ。タクシー代ぐらいすぐモト取れるわよ。
谷口  で、今度のカモはどいつなんだ?
平井  これを見て。

  平井、スマートフォンを谷口に渡して見せる

谷口  ん……?『やみつき地中海を探しています。予算は状態次第で百万まで。』
平井  そういうこと。
谷口  どういうことだよ。
平井  はぁ……これは、古書の取引掲示板。書き込んだ人はどうやらこの「やみつき地
    中海」って本を探してて、それに百万出すって言ってるのよ。
谷口  何だよその本。
平井  さぁ?
谷口  その本のジャンルは?小説?それとも旅行のガイドブックか?
平井  知らないわよ、読んだことないし。
谷口  オレ聞いたことすらねぇぞ。
平井  あたしもよ。それだけ珍しい本なんじゃないの?
谷口  じゃあそんなもん、そう簡単に手に入らねぇよ。
平井  まあね。
谷口  まあねじゃねぇだろ。手に入るアテが無いなら取引できない。当たり前だろ?
平井  それがそうでもないの。続きを読んで。
谷口  続き?

  谷口、スマートフォンを見る

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