沈黙の終点
  時は2026年。国は日本、場所は東北のとあるバス停留所である。バスの時刻表付きの標柱があり、バス停用のベンチもある。その周りは、田んぼが広がっている。幕外だがバス停のちょうど正面にはコンクリート打ちっぱなしの建物。その他には遠くに建物が見える。

  登場人物は、二人。
  dとsである。dは、daddyである。sは、sonである。



s 父に棄てられたと思っていた。そう思い込んで、二十数年。二ヶ月前。母の葬儀のあと、遺品を整理していた時に出てきた日記を読んだ時、僕と母が父を棄てたのだという事実を突きつけられた。母の日記には父への謝罪がつづられ、自らの決断で僕を連れて家を出たことが記されていた。真実を知らない時は清々したものだが、人間、自分の勘違いが判ると落ち着かなくなるようだ。残されたのはダンボールが一個。時代遅れの大学ノートに記された日記が数十冊に紙媒体の手紙が数百枚、ボタン一つの検索機能で何でも探せる時代に、書かれた文章を隅々まで読み、文字の海をサルベージする羽目になった。ちなみに父の写真は一切見つからなかった。会社をクビになった僕は、父の事を調べることにした。身元保証人になってもらわないと次の仕事もにもありつけない。数日は母の日記の中で過ごしたと言っても過言ではなかった。日記の中から読み取ったことが二つある。十五前まで母が父と連絡をとっていたことが一つ、もう一つは、十五年前に父と連絡をとるのを止めている事だ。父への思いを綴った日記には、僕の事が主に書かれていた、時より思い出すように父のことが書かれていたけれど…。父の手がかりが途絶えた事はこたえた。大学ノートを読み終わる頃にはすっかり母への見方が変わってしまった。母が父を深く愛していた、という事実は僕をなんとも言えない気持ちにさせた。愛していたなら、何故出ていってしまったのか。クビになった僕を見捨てた恋人の顔が脳裏に浮かぶ。最後のノートから父の実家らしきからの手紙を見つけたのだ。孫の写真を送って欲しいという内容が記されていた。僕が思ったことは二つ。母は送っただろうか?きっと送っていないだろう。じゃあ、どうして手紙が残っていたのだろう?消印は十五年前のもの。今日におもむくはずだった病院に予約日変更の電話をかけて旅にでる身支度をし始めていた。住所は書かれているのだ。今更、父がどんな人間なのか知る必要はないのかもしれない、そう思う反面知りたいという欲求のようなものがあった。それを言い訳にこのドン詰まりのような現状から逃げ出したい欲求があった。会社に辞表を出さなければいけなかったという出来事が背中を押した気もした。大袈裟に言うのなら、その手紙の住所を手がかりに旅に出ることにしたのだ。

  暗転



  ある村のど真ん中を突き抜けるようにひかれた幹線道路。幹線道路に設置されたバス停留所。人気はない。バス停の標柱と少し草臥れたベンチがある。そこに座る男、dである。バスがちょうど発車したその瞬間から始まる。
  sが走り込んでくる。

s あぁ間に合わなかった
d 次は1時間後だな
s (時刻表を確かめている)そう、みたいですね
d ついてないなぁ
s そうですね(上着を脱ぐ)
d 急いでんの?
s いえ、そういうわけではないんですけど
d ふーん

  sが向かいの建物に向かおうとする。

d やめといた方がいいよ
s え?
d 何にも知らずに入るととんでもない事になる
s お店なんですか?
d そうお店
s へぇ
d 看板もなにも出てないからな。近寄って見るとどうやら店だと判るぐらいの看板…あれは看板とは言わないな表札だな、がかかってんだ
s はぁ
d それで、あぁ店なんだと思って店に入っちまうんだ。危険だよ、カエルアンコウのように危険だよ
s カエル?
d カエルアンコウ
s アンコウ?
d しらない?海底歩くやつ?
s いえ
d あぁそうなんだ
s すいません
d 気にしないで。モノの例えだから
s 確かにお店をしてるようには見えませんね
d 豆腐に見えるもんな
s 窓もないですよね
d 代わりに屋根がないからな
s しょうがないですよ、シェルターですから

  風が吹く。風の音以外何も聞こえない。獣の音も鳥の声も、人の声も。

d 今更だよな
s 最先端な感じじゃないですか
d だから、今更なんだって
s あの
d ん?
s じゃ、この辺にコンビニとかありますか?
d あるよ
s (周囲を見渡し)何処にですか?
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