瓶詰の願いと水底の記憶
瓶詰(びんづめ)の願(ねが)い

水底(みなそこ)の記憶(きおく)










開幕。
サスに照らされる女。

女  突然だけど、私は不幸だ。恋人もいない。友人もいない。家族もいない。生き甲斐もない。あるのは、両親が残してくれた数少ない財産と、12歳のころからストップされた思い出、そして、孤独という現実…
   私は不幸だ。もう、死んでしまおう。そう思った矢先、ある噂を聞いた。この世には、どんな願いもかなえてくれる魔法使いがいると。
   最初はそんな迷信、信じる気にもならなかった。だけど、私はその魔法使いの噂を耳にするうちに、私の心の中にある光が宿ったのを感じた…もしかしたら、その魔法使いが、私の唯一の生きる希望なのかもしれない。
   「願望の男」…それが魔法使いの名前。私は今日、その男に会いに行く。私のこの予感を…胸のざわめきの正体を、確かめるために…

  暗転。

  場所は何もない亜空間。そこをさまよう一人の女。
  女の手にはマークの付いたビンが握られている。

女  すみませ〜ん…

  呼びかけるが、返事はない。

女  誰かいますか〜…

  返事はない。

女  あの〜!
男  やかましい
女  え?
男  さっきから聞こえている

  奥からマントをかぶった男が現れる。フードを深くかぶり、顔がよく見えない。

男  探しているのは…俺か?
女  あなたは?
男  これを流したのはお前だろう

  男が手にしているのは、女が書いた手紙。

女  それじゃ…あなたが、「願望の男」?
男  なるほど。俺はそう呼ばれているのか
女  …本当に、本物?
男  疑うのか?
女  魔法使いなんて会うの初めてだし
男  そうか。信じられない相手に願い事を持ちかけたのか
女  悪い?
男  いいや。悪くはない。だが愚かだ。
信じることができん者に、願い事が叶えられるわけがない。他力本願な願いなど成就するはずがない
女  たしかに…そうね

女は恐る恐る男に話す。

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