True Love
愛玩人形のうた

True Love〜愛玩人形のうた〜


息吹肇


《登場人物》


鮎川哲郎
江本美智子
上杉翔太
八神愛理

検察官
弁護士
裁判長
記者1
記者2
記者3

SCENE0

暗闇の中、声が聞こえる。

a,b,c,d,e,f,g,h…i
私は、i
鮎川博士によって作られた九番目の人工知能
アルファベットの九番目の、i
それが私の名前

ご主人様を愛することが私の使命
ご主人様を愛することが私の運命(さだめ)
護身用アンドロイドに生まれた私の運命

そして、このメロディは、身体を失った私のメモリの中に残された
私のココロが奏でたメロディ
私の記憶のすべて

明るくなる。
法廷。
原告席にいるのは八神愛理。傍らには検察官。
被告席にいるのは江本美智子。傍らには弁護士。
中央に裁判長。
八神は江本を睨み付けている。

検察官 裁判長。検察としては、被告の殺意を裏付ける重要な証拠として、被告が中心となって研究し、作り上げた人造人間、コードネーム「i」の感情を記録したメモリーのデータを、証拠として申請いたします。このメモリに音楽データとして記録されているため、当法廷で再生することを許可していただきたいと思います。
弁護士 異議あり!「i」の感情と被告の行動との間に因果関係は何ら認められないものと思われます。問題にされるべきは、むしろ被告よりも亡くなられた上杉氏の「i」に対する思い入れや感情の方だと考えます。
裁判長 意義を却下します。当法廷は、検察側から申請のあった人造人間「i」のメモリを証拠として採用いたします。
検察官 (客席に向かって)裁判員の皆さん、被告である故鮎川哲郎が作り出した人造人間、所謂アンドロイドの「i」は、人間で言う「感情」のようなものを抱くことのできる性能を持っておりました。この「i」の感情の流れを読み解くことで、被告が上杉氏を殺害するに至った動機の重要な部分が審らかになるものと確信しております。
弁護士 裁判長。
裁判長 発言を認めます。
弁護士 裁判長、そして裁判員の方々に申し上げます。「i」の記録は全て詞のついた楽曲になっております。したがって、その詞や曲の解釈は人それぞれ違ってくると思われます。これは、あくまでもこれまでに提供された客観的な事実を部分的に補完するものに過ぎません。曲の力で真実を曲げて解釈されることのないよう、お願いする次第です。
検察官 裁判長!弁護人の今の発言は、被告側は当方の提出した証拠の価値を不当に低く評価させようという意図に基づくものであると言わざるを得ません。厳重に抗議いたします。
裁判長 この証拠の価値は、当法廷が正しく判断します。では、メモリの内容の再生を始めて下さい。

舞台、暗くなる。
人々は去る。

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