脚本ダウンロードサービス

悪魔のアパートメント

　舞台は女のアパートの一室。リビング
　時間は深夜の1時。
　こたつ机に女が一人。電話で相手を呼び出している最中。
　机の上にはノートパソコンと大量の煙草の吸い殻。中央には本棚や物置。
　下手側は部屋の玄関。上手側には押し入れがある。
　本棚には黒魔術の本や、怪しげな頭蓋骨、牛の角のようなものが陳列されている。
　やがて、女の電話に話し相手が出たようで、女は話し始める

女１「もしもしジュンコ？　……うん、リエ。ねえまだ？　はやくして欲しいんだけど。……うん、それはわかってるから。わかっててお願いしてるの。……うん。埋め合わせは必ずする。わかってるから。……え？　……ああ、そこね。そこは『丘パークタウンコーポ』。……うん。違うの。あたしが住んでるのは『パークヒルハイツ』。パークヒルハイツB館の202号室。……だから、丘パークタウンコーポにはAもBもないでしょ。Bがあるのが正解なの。……違う、丘パークタウンハイツっていう建物はないのよ。あるのは、丘パークタウンコーポと、パークヒルハイツ。で、あたしが住んでるのがパークヒルハイツ。……だから、丘パークタウンコーポにはAもBもないでしょ？　……知らねえよ！　近くに『みどりの丘公園』があるから、そういう名前がついてるんでしょ？　そんなこと言われたって、あたしがつけたわけじゃないんだから……知らねえよ！　丘パークタウンにどんなキモイおっさんが住んでようと自由でしょ。　そのキモイおっさんだって、勘違いしたあんたに叩き起こされたんだからいい迷惑でしょうよ。おまけにあんたにキモイキモイ言われて、こっちはおっさんに同情するわ。……とにかく、早く来てね。パークヒルハイツB館の202号室。早くね！」

　女１、電話を切る。
　女１、ノートパソコンに向かって作業を再開する。
　と、思いきや、玄関まで行って聞き耳を立てたり郵便受けごしに外を眺めたり。
　外の様子が気になるようである。
　パソコンでの作業をしたいようだが、外の様子が気になって落ちつかず、
　玄関前とパソコン前を行ったり来たりする女１。
　やがて、玄関からけたたましいノックが鳴り響く。
　玄関に飛びつく女１、
　おそるおそる玄関を開けると、女２が悲鳴を上げて飛び込んでくる。

女１「もう、ジュンコ遅い！　何やってんのよ！」

　女２、女１の叱りも聞かず、悲鳴を上げ続けている。

女２「リエー、リエリエー」
女１「なに、なになに？」
女２「キモかったー」
女１「うるさいな、今何時だと思ってんの」
女２「何でこんな紛らわしい名前になってんのよ」
女１「だから知らねえよ。苦情なら大家にでも言ってよ」
女２「変なおっさんに絡まれたの。あっちの202号室で」
女１「丘パークタウンコーポの方でね」
女２「ホントヤバい。何であんなのと絡まなきゃいけないのよ」
女１「部屋間違えたからでしょ」
女２「それがなんか、こっちが来るのがわかってたみたいで、『やあやあ君か。待ってたよ、さあ入って』とかって、あたし最初、あんたのお父さんなのかと思って」
女１「何で親父と同じアパートの部屋に住んでるのよ」
女２「娘さんいらっしゃいますか？　って聞いたら、なんか首かしげてて」
女１「そりゃあそうだろうね」
女２「で、いきなり『シャワー浴びる？』とか言い出して、服を脱ぎ出したの。なんかちょっと興奮気味で」
女１「なにそれ、怖い」
女２「危うくあたし、おっさんと二人でシャワー浴びるところだった」
女１「よく逃げてこられたね」
女２「深夜一時に！　おっさんと！　シャワーを！」
女１「わかった。わかったから。こんな時間に呼び出して悪かったから」
女２「一体何の用なの」
女１「まあその」
女２「だいたいあんた、卒論が忙しいんじゃなかったっけ」
女１「えっとね」

　女１、いささか歯切れの悪い様子

女１「あんたさ、浮気ってどう思う？」
女２「えっ、何いきなり。浮気？　最低だと思う」
女１「だよねえ。浮気、最低だよね」
女２「まさかあんた、……吉田に浮気された？」
女１「いや、浮気されたっていうか」
女２「何あいつ……最低！　いい人だと思ってたのに、浮気するような奴だったの？　うわっ、完全に騙されたわ。……結局男ってそうなのよ。みんな馬鹿だから、顔のきれいな女にコロっと騙されちゃって、本当にいい女を見極める目がないんだよ。だから顔のきれいな女にフラフラっといっちゃうんだ。そりゃあ男にとっては、顔のきれいな女は魅力的かもしれないけど、人間としての女の良さは、顔には絶対に現れないんだよ」
女１「うん、何でいきなり顔の話を始めたのかよくわかんないけど、きっとそうだと思う」
女２「で、あんたは吉田と続けていきたいの？　別れたいの？」
女１「うん……確かに、浮気はよくないことだよね」

1/23

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで！