【長編・100分】午後の素数【7人用】
午後の素数

登場人物 ()の中が年齢
早苗(23) 妻
優一(29) 旦那
卓巳(43) 父
美恵子(41) 母
トラ(3) 猫
ハナ(1009) 猫又
田中さん(464923) 死神




 舞台となるのは早苗自宅とバス停の2ヶ所。

 舞台中央に早苗が立っている。
 足下に白い布。

早苗 父と母が死んだ。小春日和の日曜日。久しぶりの休みに有名な司会者がテレビで電話人生相談をしているのを観ながらゴロゴロと転がっていた43歳の父を2つ年下の母は掃除機で小突き回して部屋の隅に追いやる。「あら、お父さんだったの大きな埃かと思いましたよ」なんて母の言葉には嫌みっぽさなど欠片もなくて、「脚が細くなったのかと思ったら掃除機のホースか。昔は細かったのに見る影もなくなっちまったなぁ」なんて返す父の言葉にはまるで棘がない。子犬がじゃれ合うような素敵な光景。私はそれを居間のソファに座って、書きかけの手紙越しにぼんやりみてた。お互いを「浪費女王」「荷物持ち」と呼び合いながら近所のスーパーに出かけていった父と母。「デート気分で行ってらっしゃいよ」という私の皮肉に大笑いしながら玄関のドアを閉めた。ここから先は聞いた話。スーパーの前の通りで大型トラックが猫に気づかず飛び込んできたんだそうだ。居眠り運転だってさ。猫を助けようとした母。母を助けようとした父。母も父もトラックの運転手もみんな一緒に死んでしまった。あとに残ったのは一匹の猫。たくさんの保険金と、トラック会社からのたくさんの慰謝料。いらないよこんなもの。死ぬまでに使い切れっこない。その2週間前、遠くカンボジアの方で、海外派遣単身赴任出世コースの私の旦那は、帰国まで残り1ヶ月半。その気の緩み。地雷原に足を踏み入れようとした子供の代わりに地雷を踏んだ。大当たり。両親の葬儀、準備中にその事実を知る。あとに残ったのはたくさんの保険金と、旦那の会社からのたくさんの見舞金。だからいらないよもう。毎週律儀に送られて来た1年11ヶ月分の手紙とキラキラ光る薬指のリング。涙は出なかった。



 音楽。
 早苗、床の白い布を目の前で広げる。
 その布はスクリーンの代わりになる。
 動画が投射される。
 「(団体名)」
 「午後の素数」
 「キャスト」
 「早苗(23)/娘」
 「卓巳(43)/父」
 「美恵子(41)/母」
 「優一(29)/旦那」
 「トラ(3)/猫」
 「ハナ(1009)/猫又」
 「田中さん(464923)/死神」
 「そして1ヶ月(31)/後」
 
 暗転。


 
 明転。

 洋風の居間。
 テーブル。
 椅子が2つ。

 トラがごろごろと転がっている。
 
トラ 腹減ったー。

 トラ、部屋を物色。
 トラ、上手に一度去る。
 トラ、すぐ戻って来る。

トラ きゅうりとナスしかねぇし・・・

 トラ、戸棚の上に缶詰を発見。
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