冬ニ咲ク桜
『冬ニ咲ク桜』 岩本憲嗣


 ◆登場人物
  織田よしの(おりたよしの・16歳・♀・織田家の一人娘)
  四谷松太(よつやしょうた・24歳・♂・研究者)
  ムック(むっく・?歳・?・雑種の犬)
  河津時真(かわづときざね・24歳・♂・和装の男)


     松太が日記を読んでいる。

松太  1914年12月24日。それは本当にやってきた。吉乃先生の残したこれにや
    はり間違いはなかった。これで……僕は彼女の願いを叶えることが出来る。大切
    な大切な……もう一人のよしのさんを。

     1914年。横浜港。辺りに汽笛の音が鳴り響く。

よしの はぁ……帰ってきちゃった……日本。

松太  よしのさ〜ん!!探しましたよ!!

よしの 松太?なんで貴方がここにいるのです?

松太  もちろんよしのさんのお迎えに。

よしの そういうことを聞いているのではありません。全く、貴方は心の機微を読み取る
    ということが出来ないのですか。私は……。

松太  あぁ、ご安心下さい。車を用意してありますのでお屋敷迄はそれで。

よしの 違います。本当にあなたは昔からこう鈍感というか何と言うか。

松太  そう……ですかね。申し訳ありません。それよりその……あれです、早く。

よしの あなた分かってますね。私が何を言いたいか。分かっていてわざと誤魔化そうと
    している。

松太  そ、そんなことありま……。

よしの 嘘!そうやて鼻の穴が大きくなって目がキョロキョロして眉毛が繋がりそうなく
    らいに濃くて唇がカサカサで全体的に不細工な感じになるのは嘘をつく時のあな
    たの癖です!!

松太  待って下さい!後半は完全な中傷ですよね!ボクだって好きでブサイクに……。

よしの いいから……わかってるんでしょ。私はなんでお婆様がここにいらしてないのか
    と聞きたいのです。念願だった欧州留学にも関わらず半年も経たない内に急に日
    本に戻れだなんて横暴すぎます!確かに渡しはお婆様の作って下さった資産で留
    学しました。それにお婆様は私にとってたった一人の肉親、何かお考えがあるの
    でしたらそれに従うのは当然の責務と考えております。しかし今回の件は納得が
    いきません!一刻も早くお婆様に抗議をしたいのです!!

松太  あの……実はその……。

よしの どうせ面倒臭がって迎えにいらっしゃらなかったのでしょう。だったら結構。こ
    の怒りが冷めやらぬ内に屋敷に戻って抗議致します。松太、早く車を。……どう
    したのですか?戻りますよ!!

松太  その……何と申しますか……よしの様がご抗議なさることは叶わないのです。
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