いつか、どこか、だれか、 (25分)
    町の中の古びた佇まいの民家。
    扉を開けて、女が入ってくる。手には銃が握り締められている。
   
女  …。(荒れた息遣い)

    息を殺して部屋の中を見渡す女。
    人の気配がないか探っている。

女  …。(溜め息)
    
    部屋の隅に座って俯く女。
    疲れが出たのか、しばらくしてまどろみ始める。

    間。

女  私達の国は戦争を始めました。そこには理由があるのでしょうが、国民である私
   達は詳しく知りません。これがいつの時代か私には分かりません。少なくとも今
   あなた達が過ごす時間とは異なります。場所も定かではありません。もしかした
   らこんな場所は初めからなかったのかもしれません。私達はいなかったのかもし
   れません。ただ、私の思念が形となって今からほんの少しの時間、ここで具現化
   します。あなたは見る事が出来ます。聞く事が出来ます。感じる事が出来ます。
   何を思ってくれても構いません。午前三時五十七分。今から出会って、さよなら
   までの秒読みが刻まれていきます。

    奥に潜んでいた老婆が女に近付く。
    女が気付く。

    老婆も布の掛かった長銃らしき物を手にしている。
    
    女、咄嗟に腹部を押さえる。    

女  …。
老婆 …。

    均衡状態。
    老婆が先に手を下ろす。

老婆 何処から来たの。
女  …。
老婆 逃げて来たんだろ?
女  …。
老婆 話したくなければいいよ。
女  …エアフルト。
老婆 あぁ、クレーマー橋だ。行った事があるよ。良い町だね。
女  …。
老婆 二十キロくらいか。歩いて来たの?

    女、頷く。

老婆 ご苦労だったね。何処まで?
女  イェーナ。親戚がいるから。
老婆 そうかい。無事に行けると良いね。
女  あの、
老婆 何?
女  ここはあなたの家?
老婆 火事場泥棒にでも見えるかい?
女  …町には全く人影がなかったから。
老婆 そりゃね、みんな逃げちまったよ。
女  …あなたは?
老婆 いつ死ぬか分からない状況なら、せめて死に場所くらい自分で選びたいじゃない
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