往信 (45分)
〜返事の来ないラブレター〜
舞台中央に机と椅子。
男、入場。
周囲を気にしながら机の上にそっと手紙を置いて離れる。
女、男と反対側から入場。
手紙に気付いて読み始める。
女 『突然失礼します。貴方に伝えたい事があって手紙を書きます。本当は会って直接
目の前で言いたいのですが、緊張して何も言えなくなりそうなので…。普段は手
紙なんて書かないので、上手く伝わるかとても心配です。貴方は放課後にいつも
中庭の花の世話をしていますね。僕はその姿を何度か見掛けています。いつから
か貴方を見る為にわざと中庭を横切る様になりました。春が終わる頃でしょう
か。ずっと世話をしていた花が咲いたのを見た貴方は、とても嬉しそうに笑顔を
浮かべていました。それを見た時に僕も嬉しくなって、声を掛けて話がしたいと
思ったのです。でも、急にそんな事をして怖がらせてはいけないと思ったので辞
めました。それからも貴方の姿が見たくて僕は中庭に行きました。本当はそれだ
けで満足するべきなのに、もうすぐ夏休みになって貴方の姿が見られなくなるの
を考えたら急に寂しい気持ちになったのです。もし良ければ直接会って話がした
いです。返事を待っています』
女、その場で思案。
間。
男、再び手紙を置いて離れる。
女、手紙に気付いて読み始める。
女 『何度もごめんなさい。夏休み前に貴方に送った手紙は僕の正直な気持ちです。こ
ちらから急に言い出している事なので断られても仕方がないと思っています。そ
れでも、どんな言葉でも構わないので返事をもらえると嬉しいです。もし返事を
もらえるなら、明日の放課後に貴方の机の上に置いておいてください。お願いし
ます』
女、返事を机の上に置いて離れる。
男、手紙に気付いて読み始める。
男 『お手紙ありがとうございます。最初はびっくりしたけど、貴方の気持ちは嬉しい
です。手紙をもらってから、私も貴方の事を考えていました。出来ればすぐに返
事をしたかったのですが、もらった手紙にはどうやって返事をしたらいいのかが
書いてありませんでした。あなたの名前も書いてありませんでした。なので、私
は夏休みの間ふとした時に貴方が誰なのかを考えたりしていました。色々と聞き
たい事はあるけれど、まずは貴方の名前が知りたいです。知っているとは思うけ
ど一応。私の名前は市村しおりです。返事はまた私の机の上に置いておいてくだ
さい』
男、返事を机の上に置いて離れる。
女、手紙に気付いて読み始める。
女 『お返事ありがとうございます。うっかりしていました。僕が初めにちゃんと書い
ていれば夏休みの長い期間を棒に振らずに済んだのですね。失礼かもしれません
が、今後もこうやって会わずに遣り取りしたいと言ったらしおりさんは嫌です
か? 一方的な気持ちでいた時には会いたくて堪らなかったのに、今は逆に会っ
てガッカリさせないか不安になっています。どうですか?』
女、返事を机の上に置いて離れる。
男、手紙に気付いて読み始める。
男 『貴方は私を知っているのに、私は貴方を知らないなんて対等ではありません。そ
れだと私も素直な気持ちで遣り取り出来ないです。この手紙を読んだら、中庭ま
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