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ひとりの夜に

　　　　　　ひとりの夜に

　　　電子レンジがチーンと鳴る。部屋が明るくなると、太郎がレンジからヌードル
　　を出して、テーブルへ。教科書とノートが広げてあり、学校のランドセルもある。

子供　　いただきます。

　　　と、食べ始める太郎。程なく、食べることに飽きる。ランドセルから、テスト
　　用紙を取り出す。

子供　　じゃーん！（とテスト用紙を広げ）８３点。（父親になって）いやあ、太郎
　　　は、何をやってもオタンコナスの落ちこぼれだけど、算数だけはできるなあ。
　　　（太郎に戻り）すげーだろー。（父）何をやってもオタンコナスの落ちこぼれ
　　　だけどな。ちょっとおまえ、国語、見せてみろ。（太）やだ。（父）やだじゃ
　　　ない。（太）やだ。（父）おまえ、父の言うことが聞けないのか。（太）やだ。
　　　（父）父の言うことを聞けない子はこうだ！バシ！バシ！！（太）２度もぶっ
　　　た。親父にもぶたれたことないのに。（父）バカ、今殴ってるのが親父だ。バ
　　　シ！（太）父！（父）なんだ、息子！（太）父ちゃん、強いな。（父）当たり
　　　前だ。父はな、パンチする時ビヨインって腕が伸びるんだ。（太）エー、ゴム
　　　みたい。（父）ゴム人間だからな。（太）でもさ、でも、ゴムの手で殴られて
　　　もグニャグニャして痛くないんじゃないの？（父）しかもな、父は三刀流で、
　　　両手の他に口に刀をくわえて戦えるんだ。（太）す、すげえ。（父）すごいだ
　　　ろ。（太）でもさ、でもさ、「必殺、鬼斬！」とか叫んだ時、刀落としちゃう
　　　じゃないの。（父）…さらにな、父はぐるぐる回ると足の先が赤くなって、包
　　　丁のようなキックを繰り出せるのだー。（太）うぅ、父、強え。（父）わはは。
　　　（太）でもさ、でもさ、でもさ、赤くなったら自分が一番熱いじゃん。靴、ボ
　　　ロボロになっちゃうし。（父）…なーんと父は、カプセルを飲み込むとトナカ
　　　イになれるのだ！（太）トナカイ！（父）トナカイだ〜。（太）弱そー。（父・
　　　正）あっはっは。

　　　静けさ。花子がぼんやりと見える。芝居が進むにつれ、部屋は暗くなっていく。

女性　　飽きないねぇ。

子供　　け、またおまえかよ。

女性　　毎日毎日飽きずにさ、ホント、バカだね。

子供　　バカじゃない。

女性　　じゃあ何だ、何でランドセルに「クソバカうんこったれ」とかでっかく書い
　　　てあるんだよ。ほら、それだよ。

女性　　おまえの父親は、強くなんかないよ。

子供　　あーあ、またその話か。

女性　　おまえが、その話をしたいんだろ。

子供　　したかねーよ。

女性　　そっか。じゃあ、いいや。

子供　　いいやってなんだよ。

女性　　帰る。

子供　　なんだよ。

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