彼らはバナナで鯛を釣る
彼らはバナナで鯛を釣る
登場人物
拓馬(たくま)(22) 税理士としてすでに内定済み。大学四年生。シェアハウスオーナーの息子で、彼らの住む一号館の管理を任されている。とにかくおしゃべり。皮肉屋で臆病。けれど誰より仲間思いで、やる時はやる。
勝(まさる)(19) 短大二年生。シェアハウスの新入り。料理上手で、近くのレストランでキッチンのバイトをしている。優しく、心配性。
流奈(るな)(18) 大学一年生。忘れ屋で電波。聞き上手にして慰め上手。新配達のバイトをしているが、うまくいっていない。
凪砂(なぎさ)(22) 短大四年生だけど、まだ一年生。超絶ドケチでも友の為なら金は惜しまない。バイト二つと内職を掛け持ち中。恋人は福沢諭吉。
佐代里(さより)(25) 銀行員。男女平等推進派。常にぬいぐるみを抱いてる。しっかり者で、仲間をまとめるリーダー的存在。実は一度、婚約までしたことがある。
凛太(りんた)(26) ジムトレーナー。バツイチの楽観主義者。常にダンベルを持っている。さりげなく仲間を気に掛ける兄貴肌。
男 流奈に拾われたホームレス。実は大企業の副社長。バナナ好き。今までも何度か脱走を試みたが、ことごとく捕まっている。
長谷川 逃げた副社長の秘書官。時間厳守・規則重視。何事もきっちりしないと気が済まない。
#1 パブリックルーム「彼らはおかしな同居人」
●明転
広いリビング。椅子とソファ、中央にはローテーブル。
ぬいぐるみを抱え、ソファでくつろいでいる佐代里と流奈。
佐代里 「ねえ、最近夜になると屋根裏から物音がしない?」
流奈 「ああ、あるね、あるね」
佐代里 「ネズミでもいるんじゃないかしら?」
流奈 「ネズミならまだましよ。屋根裏には、シレノスが住んでるんだから」
佐代里 「シレノスって何? 新種の白アリか何か?」
流奈 「宴が大好きな妖精のこと」
佐代里 「……何か、悪さをするの?」
流奈 「冷蔵庫のミルクがチーズに変わったらシレノスの仕業よ」
佐代里 「……ミルクは、管理人室の冷蔵庫に移そうかしら。拓馬から鍵借りなきゃ」
流奈 「(突然顔を上げ)……来る」
拓馬、勝が入ってくる。
拓馬 「よし、新入り。ようこそ我がシェアハウス『コーペラシオン』へ。ここが唯一住人と触れ合える場所、パブリックルームだ。お二人さん、待ちに待った新入りだぞ」
流奈 「うん、知ってる。オーラが初々しい」
勝 「オーラ?」
拓馬 「彼女は流奈。今の一言で彼女の属性はおおむね理解できたと思うからあえて口にはしないけど、そういうタイプだ。そっちは佐代里」
佐代里 「初めまして。あなた大学生?」
勝 「短大の二年です。勝っていいます。宜しくお願いします」
佐代里 「よろしく。大学なんて懐かしいわ」
勝 「今は何をされてるんですか?」
佐代里 「面白くもない銀行の窓口係よ。あ、凛太には会った?」
勝 「いいえ?」
佐代里 「もう一人社会人がいるんだけど、上下関係は一切なしね。それがここのルールなの。ああ、あと、七十郎には絶対触らないこと」
勝 「七十……何?」
佐代里 「七十郎。この子(ぬいぐるみ)の名前」
勝 「あ……はい……」
拓馬 「(小声で)それから、あいつは食い物に関して相当醜い。冷蔵庫に物を入れる時は必ず記名しろ。他人のものに手を出そうもんなら、翌朝お前の部屋は、グレムリンの襲撃に遭ったと思うくらいに酷いことになる。くれぐれも気をつけろ」
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