けやきの下で
〜郷土史研究部活動日誌〜
「けやきの下で」〜郷土史研究部活動日誌〜
(登場人物)
佐竹愛子 (若槻高校郷土史研究部の部長。小柄な女子)
藤原耕太 (若槻高校郷土史研究部の後輩。チャラ男)
中村知彦 (過去の人物。北陵大学の学生)
畑中靖子 (過去の人物。若槻高等女学校の生徒)
幕が開く
無人の舞台の中央に、一本のけやきの木
靖子の声だけが聞こえてくる。
靖子 「待って、この木に触れないで。あの人との約束の場所がなくなってし
まう。あの人の帰る場所がなくなってしまう。」
(1)過去:戦時中の日本
(舞台下手に知彦が立つ。)
知彦 「僕が初めて靖子さんに出会ったのは、あの戦争がますます激しさを増
し、この町も連日、アメリカ軍の空襲にさらされるようになった頃だ
った。そう、あの時も、空襲の最中だった。」
(戦闘機が飛来する音。爆弾の音)
(靖子が下手から駆け入る。舞台中央で転倒)
知彦 「危ない。」(靖子に駆け寄る)
知彦 「大丈夫ですか。」(靖子を助け起こす)
靖子 「はい、大丈夫です。すみません。」
知彦 「こっちです。」
(知彦、靖子の手を引き舞台上手へ)
知彦 「ここに避難しましょう。」
(2人で防空壕に避難したとの想定で上手に屈みこむ)
靖子 「本当にすみません。助かりました。」
知彦 「危ないところでした。一人だったんですか。」
靖子 「みんなと一緒だったんですが、逃げる途中ではぐれてしまって。」
知彦 「女学校の生徒さんですね。勤労奉仕に行ってらしたんですか。」
靖子 「はい、私、若槻高等女学校の畑中靖子といいます。」
知彦 「ああ、あのけやきの木が目印の女学校ですか。
僕は、中村知彦。北陵大学の学生です。」
靖子 「まあ、北陵大学の学生さんといえば、女学校の生徒達の憧れの的です。
そんな人と2人きりで防空壕の中で過ごしたなんて、あとで誰か
に知られたりしたら、きっと大騒ぎになります。」
知彦 「僕の方こそ、若槻女学校の生徒さんといえば、皆さん大和撫子という
ことで評判ですから、そんな人とここで出会えるだなんて、何だか夢
を見ている気分です。」
(遠慮がちに微笑みあう二人)
知彦 「いつの間にか静かになりましたね。もう大丈夫のようですよ。」
(2人立ち上がる。)
知彦 「お家は近いんですか。」
靖子 「ええ、まだ少し歩きますが。」
知彦 「送っていきましょう。と言っても並んで歩くわけにはいきませんから、
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