君の面影は本の中で
【 一 】

 高校の図書館。雨の音。
 神楽は椅子に座って本を読み、本棚では和泉が本を探している。二人とも制服姿。
 やがて和泉は高い所にある本を目に留め、取ろうとする。
 神楽が本を読み終わり、本棚へ戻そうとする。

神楽「取るよ。(和泉の腕を超えて本を取り、渡す)はい」

和泉「あ……。ありがとう」

 外。
 雷が鳴る。雨が降る。
 和泉は傘をさしてスキップで帰宅する。

和泉「(鍵を回す。だがドアが開かない)あれ? 開いてたのかな。(もう一度鍵を回してドアを開ける)ただいまー」

 暗い室内。所々物が落ちている。

和泉「お母さん? ただいま……(足に水っぽい感触)何? 濡れてる」

 家族の死体が転がっている。
 和泉、それを見つける。
 雷が激しく鳴る。その光で一面が血の海だと判る。

和泉「!」

 和泉、倒れる。
 雷と雨音が増す。



【 二 】

和泉「白い鉄格子にかかる空。白い天井に白い壁、白い床に白いベッド。白い服に白い空間。それが私の世界。
私の頭の中は、真っ白に消えていた。同時に、声を発することさえ忘れていた。
時間の感覚が薄れ、視界がぼやけて白に染まる。私は白に埋もれてしまっていた。
けれど、窓からのぞく優しい微笑みは、私を白の世界からすくい上げ、鮮やかな物語の世界へと誘ってくれた」

 病院。和泉の部屋。
 和泉とゆかりが居る。和泉は椅子に座って厚い書類を読んでいる。膝元にはスケッチブックとペンがある。

ゆかり「どうかな?」

 和泉、にっこりと笑ってこくんと頷く。

ゆかり「よかった。それ、担当の編集者にも評判良かったんだ。でもそんなのはどうでもいい。
和泉が面白いって思ってくれたら、私はそれでいいんだ」

 和泉、心配そうにゆかりを見る。

ゆかり「ああ、仕事の方もちゃんとやってるから大丈夫だよ。とは言っても、和泉に渡してるやつを回してるだけだけど。
それで仕事になってるんだから、和泉は気にしなくていいんだよ。私の新作をいつも一番に読んでるのは和泉なんだからね」

 和泉、笑顔で書類をぎゅっと抱く。

ゆかり「和泉がそうやって喜んでくれるから、私は大満足だよ。いつもありがとう。これでまた、次を書く意欲が湧く。
そうだ、次は和泉を主人公にしようと思ってるんだ」

 和泉、首を傾げる。
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