じつの恋人
「じつのなんとか」
男は女に自分が「実の恋人」ではないと語り始める。
「実の恋人」とは、「実の親」や「実の兄弟」といったものと同じようなものらしいのだが・・・
/
「実の恋人」ではない、「義理の恋人」である、「赤の他人」であるというのだが、恋人同士も結局は「赤の他人」なのである。
しかし「恋人」という単語は、連呼するほどに気恥しく感じてしまう、特別な関係を示す言葉なのだろう。
/
映画を見終えて出てきた男女。
女「あーなんか雨降りそうだね。」
男「傘、持ってるよ。」
女「入れてくれる?」
男「もちろん」
女「映画館の中にいると全然気付かないよね。外でるのやだなあ。」
男「憂鬱だよな。」
女「ちーがーう。」
男「ん?」
女「外だと堂々とくっつけないじゃん。」
男「相合傘なら、いいんじゃない?」
女「あ、そっか。なら、雨もいいな。」
男、映画グッズコーナーで足をとめる。
男「パンフレット買わなくてよかった?」
女「いいや、別に。」
男「そう。」
女「でもさ、さっきの映画、ほんとうに感動しちゃったよね!」
男「・・・あー、うん。」
女「もう、実の親子の再会のシーンめちゃくちゃ泣いちゃった!事情があって会えなかったけど、お父さんも辛かったんだよね。」
男「・・・しょうがなかったんだよな。」
女「育ての親は確かにそりゃ優しいけど、、実のお父さんは一人しかいないんだから、大事だよね。息子は悩んだけど、
やっぱり、ちゃんと会って正解だったと思う。そう思わない?」
男、口を閉ざして俯く。
女、怪訝そうに首を傾げ、男の顔を覗き込む。
男、神妙な面持ちで口を開く。
男「俺、・・・実は。」
女「ん?」
男「俺、お前にずっと黙ってたことがあるんだ。」
女「・・・なに、突然?」
男「実は俺、お前の実の恋人じゃないんだ。」
女「え?」
男「いつかは言わなくちゃと思ってたけど、ずっと言えずにいたんだ。すまない。」
女「どういうこと?」
男「俺とお前は、本当の恋人じゃないんだ。」
女「・・・うそ。」
男「嘘じゃない。」
女「嘘よ!」
男「本当なんだ! 俺とお前とは実の恋人じゃあない。
本当は血の繋がりもない、赤の他人なんだ。」
女「そんな・・・」
1/3
面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種
Windows
Macintosh
E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。