メイドホームパパ
【 一 】

 辺りは暗く、仏壇の前で芽衣が泣いている。

芽衣「お母さん。お母さん」

香織「あなたはお母さんの自慢の娘よ。先発つお母さんを、どうか許して」

芽衣「お母さーん」

香織「ああ、芽衣。本当にごめんなさい。でも、芽衣はもう二十歳を越え、お葬式だってしっかりこなしていた。
あの子なりに、これから立ち直ってやっていくでしょう。心配なのは皐月。反抗期が長かったのかしら。
結局、私はあの子の心を開けぬまま、死んでしまった」

天の声「竹中香織。審査の結果、お前は天国行きだ。おめでとう。未練は無いか?」

香織「あります。息子の皐月のことが心残りです。皐月はこれから、誰かに心を開き、委ねられるかが心配で心配で」

天の声「そうか。だが、お前は既に死んでいる。死人に口無し。残念だったな」

香織「嗚呼…」

天の声「…というのは冗談で、実は今キャンペーン中でな」

香織「キャンペーン?そんなのあるんですか?」

天の声「不景気だから、死人が多くてな。おかげでがっぽり儲かってるから、景気良くサービスしているのだよ」

香織「不景気で、景気良く?」

天の声「ええー、天国行きのお客様に、もれなく未練消化ツアーにご案内ー。白線の内側に御下がりください」

香織「未練消化ツアー?」

天の声「未練がある場合、その未練が晴れるまで、今世(いまよ)に戻る事が出来る」

香織「本当?」

天の声「ただし、条件がある。自分を知る人間に、正体を明かしてはならない。そのため、顔を変える。
この約束が破られた瞬間、お前は即こちらへ強制送還される。それどころか、せっかくの天国行きから地獄行きへ堕ちてしまう。
次に、監視員の死神を二人同行させる。これが条件だ」

香織「分かった」

天の声「もし、この過酷なリスクを伴う覚悟があるのならば、己の未練を晴らしてこい。未練消化ツアーに参加するか?」

香織「参加する」

天の声「(愉快そうに笑う)…いいだろう。ユウ、ヒナ。仕事だ。行っておいで」

ユウ・ヒナ「はい」



【 二 】

 十月。竹中家。

 梅田がやってくる。

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