晩花
〜義経奥州奇譚〜
静
鉄
義経
柊
蓮華
郷
吾妻
如月
頼朝
男1
男2
見張り
〜幕〜
《第一場》
声 遥か昔、この日の国には二つの力が在った。一つはこの世の栄華を誇り、一つはこの世を兵(つわもの)で支えた。この二つの力は混じりあ
うことなく、互いに食い食われやがて一つの栄華の世が終わりを告げた。
こうこうと風。吹きすさぶ中に男
ぼろぼろの衣服に乱れた髪。青白い顔にくぼみがちな眼。生けるものとは思えぬ姿
座して動かない。その背後に青年。その手には銀に輝く剣
男 そなた、その剣をどこで手に入れた?
鉄 …なぁに、ちょいと借りたんだよ。
男 借りただと?
鉄 天下の伊勢神宮様から拝借した代物だ。
男 その剣が何なのか知っているのか。
鉄 さぁな。あんたを殺すための唯一の道具だ。
男 私を殺すのか。何故だ。
鉄 それが俺の使命だ。
男 浅はかな。そなた、名は?
鉄 鉄。
男 鉄よ、ならば本願を叶えるが良い。
鉄 何だと?
男 神殺しの咎を背負う覚悟あらば、その剣でこの首落とすがいい。
鉄 へっ、人の世に災厄を降らせるのが神様なのかよ。
男 …。
鉄 もとより、そのつもりだ。
青年、男に剣を突きつけ、男の首を切り落とす
刹那、苦しみはじめる青年。剣を持った右腕を押さえながら苦しみ、倒れこむ
そこへ女が現れる。女は青年に駆け寄る
その手に握られた剣をとると、悲しげな顔でそれを見る
そしてその剣を腕に抱き、走り去っていく
声 兵の国に光明あり。日の光のごとく眩いその光は戦場を早馬で駆け、敵軍の屍の山に光臨した。光明の影に闇あり。光明が強く
なるほどに焼き尽くされることを恐れた。
女がゆっくりと歩いてくる。その腕には白い包みで包まれた赤子を抱いている
女は優しいまなざしで赤子をあやしている
反対側からもう一人の女。片手に白い包みを持ち、もう片手には刀を引きずっている
その顔は虚ろ
離れた所に三人目の女。背を向けて座っている。手には赤い曼珠沙華を持っている
男が現れる。源頼朝。足早に立ち去ろうとする
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