珈琲日和。
「珈琲日和。」
作:澤根 孝浩
−登場人物−
・遠山 佳子 (60)
・遠山 清彦 (28)
舞台は喫茶店。
舞台に入ってくる清彦。手にはタイムカプセルと花束を持っている。
奥に向かって声を出す清彦。
清彦:母ちゃん、母ちゃん!
小走りで出てくる佳子。
佳子:はい、はい、聞こえてるよ。
店を見回す清彦。
清彦:お客さん、一人もいないじゃん。
佳子:今ちょうど落ち着いたところだよ。
清彦:そ、ほい、これ、誕生日プレゼント。少し遅くなったけど。
花束を渡す清彦。驚く佳子。訝しげに清彦を見る佳子。
清彦:どうしたの?
佳子:あんたから誕生日プレゼントを貰うなんてねぇ…何かあるんじゃないかと思って。
清彦:何にもないって。たださ…。
佳子:ただ?
佳子:…なんか、60歳って、節目って感じするだろ。
佳子:何だい、そりゃ。
まだ怪しんでいる佳子。
清彦:こういうのは素直にもらっとけばいいの。わかった?
佳子:はい、はい。じゃ、有り難くもらっておく。
花束を少し掲げるような佳子。
清彦:あ、そうだ。…あと…これ、頼まれたやつ。
タイムカプセルを渡す清彦。
佳子:おぉ!
手から取る佳子。
佳子:これだ、これだ! 懐かしいぃー。ありがとうよぉ。
嬉しそうに受け取る佳子。
清彦:花束もそんな風に受け取れよな。まったく。
聞いてない佳子。
佳子:これ、大変だったろ? 見つけるの。
清彦:まぁね。そうだ、小学校はもうなくなってたよ。建物は残ってたけど、今はもう使 われてないんだってさ。
少し驚く佳子。
佳子:…そうなの。
清彦:母ちゃんの言ってたでっかい桜の木はそのまんまだったから、すぐに見つけられた けどね。桜、満開で凄かったよ。花びらが雪みたいでさ、ひらひらって…。
佳子:へぇ…。
清彦:でも、穴掘りは疲れたわ。俺ももう歳かな。
佳子:何言ってんだい。三十そこそこで。まったく、だらしがない。
清彦:まだ28だよ! 自分の子供の歳を忘れるなよ。
佳子:同じようなもんだろ。怒りっぽいね、あんたは。煮干し食べな。煮干し。
ため息をつく清彦。
清彦:もういいよ。…でもさ、なんで、あんな田舎の小学校の校庭に母ちゃんのタイムカ プセルが埋まってるんだよ。
佳子:あの小学校はね、わたしの卒業した小学校なのよ。
清彦:へぇ…。え? 母ちゃん、ずっとここで育ったんじゃないの?
佳子:小学校を卒業してから、こっちに越して来たのさ。父ちゃん…あんたの爺ちゃんの 仕事でね。
清彦:初めて聞いた。
佳子:まぁ、あんたが生まれた頃には、向こうに親戚もなかったしね。知らないのは無理 もないさ。
清彦:…それにしても、タイムカプセル、埋めすぎだろ。母ちゃんの小学校卒業って何十 年前だって話だよ。覚えてたことに感心するよ。
いたずらっぽく笑う佳子。
佳子:何にも覚えてないんだねぇ。
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