あかね
〜戦国を駆け抜けた或る娘の話〜
あかね
〜戦国を駆け抜けた或る娘の話〜
(登場人物)
茜 (戦国時代を自分の力だけで生き抜こうとする娘)
捨丸(茜の弟分の少年)
菊 (愛徳寺で孤児たちの世話をする娘)
千代(山乃屋の女主人)
(1)
(戦国時代のどこかの城下町)
(その城下町の中で最も大きな問屋である山乃屋の座敷)
(山乃屋の女主人である千代と、菊が向かい合って座っている)
菊 「どうか、どうかお願いいたします。」(手をついて深々と頭を下げて
懇願)
千代 「いい加減にしてもらえませんか。そう何度も何度も寄進ができるほど、
うちだって裕福ではないんですよ。」
菊 「でも山乃屋さんは、この城下町でいちばん大きな問屋でいらっしゃい
ます。私としては、どうしても山乃屋さんに頼るしかないのです。」
千代 「そりゃあ確かに大きな店を出させてもらってますけどね、その分雇っ
ている人間も多いし、月岡の殿様にお納めする運上金だってバカにな
らないんですよ。店が大きいということは、それだけ元手もかかるん
です。その上に、みなし子を養うための寄進なんて、とてもとても」
菊 「でも、愛徳寺で養われている子供たちは、いくさのために家も親もな
くしてしまったんです。その子たちの食べるものや、病気の子供のた
めの薬も」
千代 「わかりましたよ。(布包みを取り出して菊に差し出し)もうこれで最
後にしてくださいよ。」
菊 「ありがとうございます。でも、どうかこれで最後などとはおっしゃら
ずに、これからも」
千代 「それを持ってさっさとお帰りください。」
(暗転)
(2)
(上手袖から茜が全力で駆けてくる。)
(下手まで走って立ち止まり、あたりを見回し、物陰に隠れる。)
(茜は追われていた。その追ってきた男が茜のそばまでやってきた。茜は
様子を探ろうと物陰から首を出したり、見つかりそうになって、また引
っ込めたり)
(やがて男はあきらめて去ったようだ。茜、物陰から出てくる。)
茜 「行ったか。けっ、ほんとにしつこい奴だぜ。」
(ふところから財布を取り出し、中を確かめる)
茜 「なんだよ、これっぽっちかよ。たかがこれっぽっちの銭をすられたぐ
らいで血相変えて追いかけてくるんじゃねえよ。捕まれば、なぶり殺
しにされるかもしれねえ、命がけの稼業なんだぜ。これっぽっちの銭
で命張ってられるかってんだ。」
(「あーあ」とやるせない溜め息をついて)
茜 「命か……。何のためにこんなことに命かけてんだろう。」
「なあお天道様、あたしの命って何のためにあるのかなあ。そもそもあ
たしは何者なんだ。いちおう茜っていう名前はあるけど、母親が誰な
のかすらわからない。なあ、いったいあたしは何で生まれてきたんだ。
何のために生きてるんだ……。答えてはくれねえよなあ。今まで一度
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