これからの私
「これからの私」
≪登場人物≫
白崎ユリ
相原リカ
舞台中央にちゃぶ台ぐらいの高さの台(1メートル四方ぐらい)
暗転の舞台に、ショパン『別れの曲』
スポットの中にユリの姿が浮かび上がる。
ユリ、台をちゃぶ台に見立て、その上に原稿用紙を広げ、作文を書いている。
書き上げて、その原稿用紙を持って立ち上がる。
その作文を読んでみる。
ユリ 「これからの私。2年4組 白崎ユリ
私は今、ショパンの別れの曲を聞きながら、この作文を書いています。この曲と
ともに、私も今までの私に別れを告げるのです。
これからの私は今までの私と違います。遅刻はしません。授業にもちゃんと出席
します。出席したらもちろん居眠りはしません。こっそりとお弁当を食べたりも
しません。先生の授業を真剣に聞きます。学校が終わったら、まっすぐ家に帰り
ます。そして宿題をちゃんとやります。たとえ宿題が出されていなくても、毎日
の予習・復習は欠かしません。そして宿題と予習・復習が終わったら、お風呂に
入ってさっさと寝ます。決して深夜番組を見たり、テレビゲームやニコニコ動画
に夢中になって、気が付いたら朝になっていたなんてことは、もうありません。
今回のことをしっかりと反省し、生まれ変わった気持ちになって、正しい高校
生活を送っていきます。」
ユリ 「……って、なんなのよ、これ!」
(原稿用紙を足元にたたきつけ、踏みにじる。)
(同時に『別れの曲』カットアウト。舞台に照明入る)
ユリ 「こんな作文を書いたなんて、我ながらおぞましい、ぞっとするわ。
いったい、私どうしてしまったの......。そうだ! これは拘禁神経症よ、
きっと。狭い空間に閉じ込められると、人間は精神に変調をきたして、わけの
わからないことを口走ったり、おかしな行動をしたりするって、何かで読んだ
ことがあるわ。今私はそういう状態なのよ。だって、昨日も今日も、この家か
ら一歩も外へ出られず閉じ込められているのよ。この何よりも自由を愛する私
が、家の中に閉じ込められて自由を失ってしまっているなんて。そしてそれが
明日も続くなんて…。だめ! もう耐えられなーい。」
(玄関チャイムの音:ピンポーン)
ユリ 「はーい、だれー?」
(玄関を開けに行く)
「リカー! 来てくれたのー!」
(制服姿のリカ、入ってくる)
リカ 「よっ、元気?」
ユリ 「元気よ〜、元気すぎて死にそうよ〜! こんなに元気が有り余っているのに
外に出られないなんて〜!」
リカ 「明日もう一日の我慢じゃないの? 停学期間は3日だよね。」
ユリ 「そう今日は2日目。明日もう1日我慢すれば、カゴの鳥状態から解き放たれ
て、私は再び自由にはばたくことができるのよ。」
リカ 「停学処分を受けた時は喜んでたんじゃないの。『これで3日間、公然と学校
をさぼれる!』って。」
ユリ 「そうよ、3日間もお休みがもらえるんだラッキー、それじゃあ、どこ行こう、
何しよう、なんてるんるん気分だったんだけど、認識が甘かったわ。」
リカ 「だから言ったでしょう。停学っていうのは単なるお休みじゃないって。」
ユリ 「ほんとね。停学って、単に学校に来なくていいってことじゃないのね。3日
間、一歩も外に出ちゃだめだって。そして山ほどの宿題を出されて、毎日そ
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