星にならなかったよだかと賢治先生
いじめ防止キャンペーン用腹話術台本
腹話術台本「星にならなかったよだかと賢治先生」(20分公演)
−いじめ防止キャンペーン用−
【まえがき】
登場人物は、賢治先生(宮沢賢治)とよだかの人形です。
『よだかの星』を踏まえた筋になっています。
よだかは、鳥クラスの中でいじめられているので、元気がありません。理由を聞かれたよだかは、いじめのことを賢治先生に打ち明けます。
さてこの遣り取り、どんなふうに展開していくのでしょうか。それは観てのお楽しみ……。
【言わでもの言い訳】
初級編ということで、人形のセリフには、発音のむずかしいマ行、バ行、パ行の音をまったく遣わないようにしました。
そのために、少々不自然な言い回しになったところもあるかもしれません。
腹話術入門台本(脚本)ということで、ご了承ください。
【では、はじまり、はじまり】
(賢治先生が、よだかを抱えて登場。椅子に腰かける。
賢治先生は、山高帽子にコートといった写真にあるような出で立ち。
よだかの人形は、市販されている40〜50センチくらいの大きさで、後ろから手を入れて、口をパクパクさせる仕組みの人形に、よだかの顔に似せた手作りのかぶり物をかぶらせ、背中に羽をつけたもの)
賢治先生 「みなさん、こんにちは……、わたすは宮沢賢治です。まんず、自己紹介させてもらいます。みなさんは宮沢賢治って知っていますか」(生徒の反応を探る)
「そうですね。『雨ニモ負ケズ 風ニモ負ケズ』っていう詩とか、『銀河鉄道の夜』っていう童話などを書いた詩人です。先生をしていたことがあるので、生徒さんは賢治先生と呼んでくれます。……ところで、みなさん、私は『雨ニモ負ケズ』元気なんですが、きみたちは元気ですかー」(と、大きな声で叫ぶ)
(「元気です」、と返事が返ってくる)「はい、けっこです、元気でなによりです。みなさんは、元気だけど、ここにいるよだかさんは、あんまり元気じゃないみたいなんです」
(と、ぐたっとしているよだかを眺める)「さあ、よだかくん、みなさんに挨拶しなさい」
よだか 「ハーイ、こんちは……」(小さい声で)
賢治先生 「何だか元気のない挨拶だなあ、みなさん、よだかくんです。よろしくね。(「よろしくお願いします」の声)、さあ、みんなは元気がいいぞ、よだかさんも、もう一度挨拶のやりなおししたら……」
よだか 「こんちは、オレよだか、よろしくお、お願い……いたし……」
(最初は力んで大きい声を出すが、だんだん力がなくなって小さい声になり、語尾は聞こえない)
賢治先生 「どうしたの? 何だか元気がないんじゃないの」
よだか 「オレ、きょうは賢治先生に聞いてほしいことがあるんです」
賢治先生 「はい、何でもいいよ、賢治先生は何でも聞きますから……」
よだか 「オレ、……あの、オレさぁ……」
賢治先生 「どうしたの? さあ、しっかりして言ってごらん」
よだか 「オレ、いじわるされてるんです……」
賢治先生 「ふーん、いじわるって、いじめ?(よだか、うなずく)……、それでだれがいじめているの?」
よだか 「タカくんです。……タカくんが、オレにいじわるするんです」
賢治先生 「タカくんか、タカくんがいじめるのか……、わかった、じゃあ、もっとくわしく聞かせてくれる、……でも、その前に、みんなによだかくんのクラスのことを説明しておくかな。鳥の生徒は何羽いるの?」
よだか 「十二羽です」
賢治先生 「ふーん、少ないね。その中でタカくんは、ガキ大将みたいなものかな」
よだか 「そうです、ガキ大将」
賢治先生 「体も大きいからね」
よだか 「オレなんか、顔は納豆食ったあとのようだし、口はひらたくてかっこうわるいし、こんなんだからいじわるされるのかな」
賢治先生 「そんなふうに考えて、自分のことをつまらない鳥だって考えるのは、一番よくないよ。……それで、そのタカくんが、どんなことをするのかな」
よだか 「よだかとタカと似ていてややこしいから、いっそのこと、よだかという名を変えたらどうや、というんです」
賢治先生 「たしかに名前がにているけどね」(と、タカとよだかの実物大の写真か絵が貼り付けてある白板を見せる。それぞれの写真の下に名前が書いてある)「タカさんがこれ、タカって書いてあるね。こんなに大きくて強そうだな。これがよだかくんだ。よだかって書いてあるね。似ているね。タカのところがおんなじだからね」
よだか 「タカくんは、イチゾウに変えろっていうんです」
賢治先生 「そんなことを言うのか……それは、ひどいはなしだね。名前というのは、生まれたとき、お父さんやお母さんが願いを込めて付けてくれたものだからね。赤ちゃんのときから、何回も何十回もその名前を呼ばれて育ってきたんだよ。よだか、よだかって何万回も、何百万回も呼ばれて来たんだ。それだけ大切なものだってことだよ。そまつにしたり、バカにしてはいけない。まして、名前を変えろっていうのはひどい話だよね」
よだか 「それから、近づいたら汚いキンがうつるって……。オレのこと、鳥インフルエンザっていうんです」
賢治先生 「それは、ひどい……、差別だなあ。汚いものあつかいか、何にもうつるはずがないのにね。むかし、差別されている人からもらったお金を汚いと言って、水で洗ったのとおんなじような差別だね。でも、そんなこと無視すればいいんだよ。いちいちかまってたら相手をおもしろがらせるだけだからね」
よだか 「それから、クラス中にオレをシカトしろ、口をきくなって、言いつけたんです」
賢治先生 「ふーん、そんなことを言ってる、ひどいなぁ。(客席に)みんな『シカト』って、分かるかな。無視することだけど、……みんなにシカトされたら悲しいよね。文句いわれるよりつらいだろう。教室にいるのにいないみたいだからね。いなくなれって言われてるのとおんなじことだから、これはいちばんひどいことかもしれないね」
よだか 「以前は、タカくんにああしろこうしろと使われていたんです。そのころは、
シカトされてなかったんですけど……」
賢治先生 「パシリをさされていたのか。そうか、……(客席に)パシリっていうのは、ガキ大将の命令で使い走りをさせられる人。使いぱしりからパシリ……」
よだか 「他の子が使い走(はし)りになったら、オレがシカトされるようになったんです。……このごろは、何か隠されたりするし、……賢治先生、どうしたらいいですか。オレ、わからないんです」
賢治先生 「どうしたらいいか、どうしたら解決できるか、これから二人で考えてみようよ。……でも、君は、何にもわからないっていうけれど、私にそのことを話してくれたから、もう解決に一歩近づいたんだよ」
よだか 「そうかなぁ、オレ、相談するのこわかったんです。チクったってタカくんに知られたら、どんなしうちを受けるか分からないから……」
賢治先生 「それは、心配することないよ。チクリが悪いっていうのは、いじめっこの言うことだ。いじめられっこはチクってもいいんだよ。それに、もしかしたら、それはタカくんのためでもあるんだよ」
よだか 「本当ですか?」
賢治先生 「本当だよ。よだかくんは、これまで、一人でくらーい部屋の中に閉じこめられているような気持で過ごしていただろう。でも、賢治先生に話して少しは明るくなったんじゃないか……」
よだか 「そう言やぁ、ちょっと明るくなったような……」(と見まわす)
賢治先生 「窓が開いたんだよ」
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