学園カバディ(マキコ編)
学園カバディ (マキコ編)
マキコ「よっ」
近松 見慣れない制服に戸惑った。カバディの練習試合や大会で、男の知り合いは結構いる。
だが、女で俺に話しかけてくるような知り合いなんていたか?
声をかけてきた少女は走って来た為か、頬が紅潮していた。
ちょっとかわいいなあ、なんて思っていると、彼女は困ったような顔をして言った。
マキコ「あれ、もしかしてわたしのこと、覚えてない?」
近松 ショックだなあと呟きながら俯く少女。待て待て、俺にこんなかわいい知り合いが他校にいたか?
何も思い出せず、何も言えずに気まずい沈黙だけが流れる。
時間にしては数秒だったが、俺にはそれが永久(とわ)くらいに長く感じられた。
全く、時間の圧縮を体感するなんて、イモコ先輩とのカバディの試合以来じゃないか。
その空白の時間に耐えられなくなり、俺はとんでもないことを口走っていた。
近松「誰だよ」
近松 しかも手で相手の頭を叩きながらのツッコミつきだった。
一瞬、空気が凍りついた。やべっ、やらかした?
マキコ「ぷっ??」
近松 少女はその小さな口許から小さな笑いを吹き出した。
そして笑いを堪えるように腹を押さえてしばらく耐えていたが、ついに笑いのダムが決壊したらしく洪水のようにケラケラと笑い始めた。
なんだ、大人しい感じの女の子かと思ったら、意外と快活なタイプか?
近松「おい、そんなに笑うことないだろ……」
マキコ「ごめんごめん、これって『ゼミ』のネタだよね。わたし、あのドラマ大好きなんだ」
近松 くだらなくておもしろいよね、と笑い混じりに付け足されたが、上手く聞き取れない。
それくらいに彼女にはツボだったらしい。
マキコ「会っていきなりそれはないよ。やっぱり君はおもしろいなあ。こんなおもしろい男子、うちの部にはいないよ」
近松 嬉しそうに言った少女の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。それ、笑いすぎ。
しかし、うちの部って??
近松「あ」
近松 漸く思い出す事ができた。
近松「お前、田中か?」
近松 どうして忘れていたんだ。
赤間学園と小倉学園との練習試合の時に、俺たちは出会っている。
俺はこいつを知っている。
なのに、どうして今は気付かなかった?答えは簡単だ。
だって、以前会った時とは、まるで印象が違う。
マキコ「やっと思い出してくれた?」
近松 彼女が小首を傾げると、ショートカットの髪が僅かに揺れた。
そうだ、前に会った時はもっと髪が長かったはずだ。
長い髪をツインテールにして、今みたいに首を傾けると、もっと髪が踊っていた。
近松「なんで、髪切ったんだよ」
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