土地

『土地』


 三人の男がいる。
 足下には赤い長方形の枠と青い長方形の枠が隣接して置いてある。
 枠は小さいが、客席から認識できる大きさ。
 これは男1と男2の所有する土地である。
 男3は土地の相続を管理する役人。


 口論している男1と男2。

 ゆっくりと照明がつく。

男1「いま、ちょっと入ったでしょう」
男2「入ってませんよ」
男1「いいや、入りました」
男2「言いがかりを言うのはやめてくださいよ。そちらこそ、少し出たんじゃありませんか?」
男1「出てませんよ」
男2「いいや、出ましたね」
男1「言いがかりを言うのはやめてくださいよ」
男3「まあまあ、お二人とも、落ち着いて。言い争ってもなんにもなりませんよ」
男1「なんにもならないことなんてない! これはとても重要なことなんですよ!」
男2「そうだ! これはとても重要なことなんだ!
   あ、あなた今ちょっと入ったでしょう」
男1「入ってませんよ」
男2「いいや、はいりました」
男1「言いがかりを言うのはやめて下さいよ。そちらこそ、少し出たんじゃありませんか?」
男2「出てませんよ」
男1「いいや、出ましたね」
男2「言いがかりを言うのはやめてくださいよ」
男3「まあまあ、お二人とも落ち着いて。言い争ってもなんにもなりませんよ」
男1「なんにもならないことなんてない! これは私の権利だ!」
男2「その通り、なんにもならないことなんてない。これは大事な権利なんだ」
男12「ここは、私の土地なんだ!」

 足元のそれぞれの枠を大事そうになぞる。しかし狭い。

男2「だいたいね、国の役人であるあなたたちがちゃあんと土地を管理していないからこんなことになるんですよ」
男1「その通りだ! あなた方役人が白黒はっきりつけないから、土地の所有者と土地の輪郭があいまいになってしまうんだ!」
男3「すみません、なにせ資料がだいぶ古いものでして、相続の際に手続きの行き違いがあったりなかったりなどで、どうにもどの土地が誰の土地であるのかがわからなくなったりならなかったりといった現状でございまして・・・」
男12「・・・っ!」
男3「あ、ほんとはこっちでした」

 男3、上手側を指差す。
 男1、2、枠(土地)を上手に移動させる。
 自分の土地を大事になぞる二人。

男1「あ、あなたちょっと出たでしょう!」
男2「出てません」
男1「出ました。爪先がちょっとはみ出してる!」
男2「つまさき!」
男1「爪の先ですよ!」
男2「爪の先っ! たったそれだけじゃあないですか。そんなのはね、誤差の範囲内ですよ。なんて心の狭い人なんだ」
男1「爪の先だろうが、誤差だろうが、領域を侵していることにはかわりない! 不法侵入だ! 権利の侵害だ!!」
男2「そういうあなたこそ、鼻の先がこちら側に入りましたよ!」
男1「鼻の先! はっ! 鼻の先っ!」
男2「ええ鼻の先ですよ!」
男1「別に足を踏み込んだわけでもないのになんて融通の利かない人なんだ! こんなの、ただの空中じゃあないですか!」
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