花屋の憂鬱
花屋の憂鬱

登場人物

椿(男・花屋のアルバイト店員)
松田(男・花屋のアルバイト店員)


 とある、小さな花屋
 椿、一心不乱に売り物の花で花占いをしている
 松田、その様子を冷めた目で見る

椿:好き……嫌い……好き……嫌い……。
松田:……。
椿:好き……嫌い……。
松田:先輩、先輩。
椿:好き……嫌い……好き! あぁ、やっぱり俺は彼女のことを!
松田:最後おかしくなかったですか、明らかに。
  :茎のところ折ったでしょ。
椿:ああ、俺はどうすれば……。
松田:先輩、いい加減売り物の花使って花占いするのやめてください。
椿:おお松田、聞いてくれ。俺の高鳴るハートビートの理由を。
松田:聞き飽きましたよ。ってか、僕の話聞いてました?
椿:店の花で占いすんなってだろ? いいんだよ、俺は特別なんだ。
 :何年この店で働いてると思ってる。
 :「花屋の椿」と言えば、俺のことよ。
松田:そういう問題じゃないんですよ。
  :店長に見つかったらヤバいでしょ。
椿:うるせえええ! 今それどころじゃねえんだよ、ボケ!
松田:また、例のあの人ですか。
椿:よくわかったな。
松田:丸わかりです。それで今どき、花占いって……。大の大人が。
椿:悪いかよ! ふん、何とでも言うがいい。
 :俺の花占いは百発百中。
 :やはり、俺は彼女のことを愛しているようだ。
 :そして、彼女も然り。
松田:強引だなあ。どこにそんな根拠が。
椿:恋は盲目だよ。今の俺は、花屋の仕事が全く身に入らない。
松田:いや仕事してくださいよ。
  :さっきから俺一人でやってるんですよ。
椿:なあ、松田。俺はどうすればいいんだろう。
 :どうすれば、この胸の鼓動を抑えられる?
松田:聞いちゃいねえな。
  :あれですよね。先輩が一目ぼれしたっていう例の女の子、
  :毎週水曜のお昼頃に店にやって来ては、
  :天使と見紛うような笑顔を振りまいてくれるんでしたよね。
  :僕、水曜はシフト入れてないから見たことないですけど。  
椿:そうそう、そうなんだよ!
 :もう水曜が楽しみのなんのって……。
 :お前、よく覚えてるな?
 :まさか、お前もあの人のことを!?
松田:何十回と聞きましたからね。嫌でも覚えますよ。
椿:あっそう。いやな、お花好きという理由で
 :毎週通ってくれてるらしいが……。
 :他に理由があると見ている。
松田:何ですか。
椿:俺に、会いにきてるんだよ。
松田:寝言は寝て言ってください。
椿:ひでえな、お前!
松田:いいから、仕事してくださいよ。
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