PHAGO
PHAGO {ファーゴ}
キャスト:男
     女  
計:二名


暗闇・いきなり激しい雨音。雷鳴。
男登場

男「ひどい雨だ」

雷鳴

男「うわっ!! くそ、褌までびしょぬれだよ、もう」

雷鳴

男「ああ、ちくしょう」

男何かに躓き転倒、

男「うわー、くそう。こんな荒れ野に東屋もないだろうし、せめて雨宿りでも」

雷鳴とともに、女登場

女「あれ、お武家様」
男「……? 人か」
女「これは異なことを。人以外に見えますか?」
男「いや、失礼。このような場所で女人に会うとは思いもしなんだ」
女「どうされましたお武家様? このような荒れ野で、ご覧のとおりの無粋な雨でございます」
男「無粋な雨をしのげる場所を探している」
女「それならば、我が庵へお越しください。お見苦しい場所ではございますが、何か暖かいものでもお出しいたしましょう」
男「かたじけない」

雨音、雷鳴、二人一旦退場
庵部分だけ照明、二人登場

女「ささ、お武家様。このような場所で申し訳ございませんが、夜の雨はしのげましょう」
男「いや、痛み入ります」
女「合羽も羽織もお脱ぎ下さい。ここにかけておけば、乾きましょう」
男「何から何まで」

男、合羽を預けそれを干す女。女、そのまま鍋の具合を見る。

女「どうぞ火の近くに。冷えますでしょう?」
男「これは、有り難い」
女「よいのですよ。ここのところ、この荒れ野を通るお武家様を良くお見受けいたします。関ヶ原で戦があった後、その頃からでしょうか」
男「太閤が亡くなられたから、世の形が幾分か変わりましたからな」
女「お武家様の、その旗印は」
男「ご存知か」
女「失礼致しました。つい。その六連銭、上田での合戦の様子を昔話に聞かされたので」
男「そうですか」
女「酒など出しましょうか」
男「遠慮なくいただきたいが、そなたも雨に濡れているであろう。我が勝手に邪魔をしているのだ。お気遣いなく」
女「ではお言葉に甘えて」

女、上着を脱ぎ、襦袢姿。濡れた髪を結い上げ、別の着物を羽織っただけの姿で男に酒を出す。

男「お一人で、ここにお住まいか?」
女「かつては夫がおりましたが、すでに亡き人でございます」
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