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冷めたホットミルクは、アイスミルクと同じじゃない

冷めたホットミルクはアイスミルクと同じじゃない

ナノカ　　　　　…ネイルの専門学校生。女。
アオノ　　　　　…国立大学法学部の学生。男。
ムウ　　　　　　…俳優育成所に通うフリーター。男。
メヒナ　　　　　…私立大学心理学部の学生。女。

幕上がる。
舞台はナノカの部屋。ベットと机、雑誌がたくさん入った本棚。
不思議な曲が流れている。
ふらふらと棚の方へ歩み寄る。
ナノカ、棚に置いてあるホットミルクをゆっくり手に取る。
もう冷めたカップを、両手で感じる。
そして、一口飲む。

ナノカ　　「…まずい。」

間

暗転。

ナノカはベットに寝転び、両手を天井向けて高く上げている。
しばらく間。

ナノカ　　「こんな体勢で失礼します。今、爪を乾かしているんです。
　　　　　　…爪を乾かしてるとは、とんだ失言を。
　　　　　　爪に塗ったマニキュアを乾かしているんです。
　　　　　　…マニキュアを乾かしている時とは、なんて無防備なのでしょう。
　　　　　　爪に全神経を持っていかれてるような気さえします。
　　　　　　細心の注意を払っていても、乾くまでは何かに触れることができません。
　　　　　　ふと乾いていないことを忘れて、
　　　　　　喉が渇いたなんて冷蔵庫から水を取り出そうものならもう大変。
　　　　　　マニキュアが崩れるわ、コップにマニキュアがつくわ、
　　　　　　除光液はどこだ、除光液を持ってこい、
　　　　　　そして除光液を探しに部屋の扉を開けてまた崩れる…。
　　　　　　だからもうここから一歩も動かないと決めたんです。
　　　　　　喉が渇いてようが、マニキュアは乾いてないんだぞ！と。
　　　　　　…人間ここまで無防備になれる時があるのでしょうか。
　　　　　　私はあの１年前の事件を見てそう思います。
　　　　　　其の人は、その無防備を見抜いた、第一人者だと思っています。
　　　　　　恐怖心を抱きながらも、何処かで納得しています。
　　　　　　あそこまで無防備だったんだもの。仕方ないではないか。と。
　　　　　　…あれ、皆さん、なんだか唖然としていますね。
　　　　　　どうなさいましたか？
　　　　　　…そりゃあ見えますよ。こんな体勢でも。
　　　　　　皆さんの顔、はっきりと見えますよ。

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