かがみ
  かがみ
                          外山 尚生

  1

  暗闇の中に不気味にうつる大きな鏡(映像)。その鏡は不気味なうねりを醸し出しているが特にこれといったものはうつしていない。
  そこに聞こえてくる古い柱時計の鐘の音。ボーン、ボーン、ボーン、と三つ。そして、秒針を刻む音。
  静寂の中聞こえてくるガラスをコツコツとたたく音。

レイカ 夜中の三時ころだったかな?なんかガラスをたたくような音がして、私は目を覚ましたの。でも周りをみたけど誰もいない。変だなあと思いながら私はまた寝たの。すると……

  再び聞こえてくるガラスをたたく音。鏡に徐々に映る人の影。そこはかとなくレイカに似ている。が、不気味さは比較にならない。

レイカ また誰かがガラスをたたいているんだ。でも、やっぱり周りには誰もいない。私、だんだん怖くなってきて……その時ふと鏡を見たんだ。ほら、知っているでしょ。私の家の古くて大きな鏡。そしたら……鏡に映った私がニヤリと笑ったんだ。

  鏡はゆっくりと姿を消していく。不気味な余韻を残しながら明転。
  そこにはレイカと明美がいる。明美は特に気にした様子もなく小さな鏡を見ている。

明美  ふぅ〜ん。
レイカ 「ふぅ〜ん」って、もっと怖がってよ〜。
明美  っていうか、それってあんたが笑っただけじゃないの?
レイカ そんなことないわよ。だってほんとに怖かったんだから。あんな状況で笑えるはずないわよ。
明美  ふ〜ん。
レイカ それにね、すごく不気味な笑い顔だったんだから。
明美  なんかよくある話よね〜。ガラスをたたく音とか、鏡の中の私が笑ったとか。怖い話っていうから期待したのに損した。
レイカ ちょっと、ほんとの話なんだから真面目に聞いてよ〜。
明美  はいはい。それでその後どうなったわけ?
レイカ また寝たわよ。
明美  あっそ。これで終わり?
レイカ まだ。それで、私がウトウトしかけたら変な声がしたんだ。
明美  なんて?
レイカ 「私がやってあげる」
明美  却下。
レイカ ちょっと〜。
明美  ぜんぜん怖くない。
レイカ ねえ。「私がやってあげる」ってどういう意味だと思う?
明美  さあね。
レイカ 真面目に聞いてってば!

  と言いながら明美の鏡を前から取る。

明美  ちょっと!やめてよ!

  明美、後ろを向く。すなわちレイカと反対の方向を向く。

レイカ あんた、どっち向いてんの?
明美  あれ?変だな?あんたが後ろにいたような気がしたんだけど…。
レイカ 私はずっとここにいたわよ。
明美  だから、あんたが鏡にうつったような。
レイカ 映るはずないじゃないの。しっかりしてよね。
明美  う、うん。確かに映ったんだけどな。気のせいか。
レイカ またわけのわかんないこと言う。どうしてここにいる私が鏡に映るわけ?

  といいながらレイカは鏡を見る。レイカの動きが止まる。

明美  どうしたのよ?
レイカ また、笑ったような…
明美  もうそのネタはいいって!
レイカ う、うん。

1/11

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。

ホーム