バビロン・シンドローム
Babylonian Syndrome
『バビロン・シンドローム』
“Babylonian Syndrome”

北海道小樽水産高等学校演劇部(平成12年度) 作



登場人物
 覚(さとる)
 武(たけし)
 望(のぞみ)
 課長
 教員
 生徒1
 生徒2
 警備員1
 警備員2
 覚の母親
 警告人
 市長



1.

 暗い舞台の真ん中に立つ覚に、照明。

覚「夢を見ている。また同じシーンから始まっている……。」

 BGM(スーパーカー「Wonderful World」)、入る。

覚「強い風がぼくの髪を撫でつける。目を開けると、視界いっぱいに青い空がある。沸きあがるような入道雲が、遠くに見える。暑い空気に包まれたぼくのからだは、水の底にいるように、重い。
 足元を見る。どうやらぼくは、恐ろしく高い建物の屋上にいるらしい。でもその屋上には、周囲にあるべき柵がない。
 ……柵がないんだ……。
 ぼくはゆっくりと足を運ぶ。屋上の端に向かって。
 ちょっとだけ視線を下げる。地上を埋め尽くす家々は、小指の爪よりも小さく見える。
 縁に立つ。壁に沿って下から風が吹き上げてくる。額から頬に汗が流れる。
 視線を少しずつ遠くに送っていく。彼方の入道雲が再び視界に入る。それを見たまま、空に向かって、一歩、踏み出す。とっさに、足が下を支えてくれる物を求める。しかし何も応えてはくれない。
 (一呼吸おいて)落ちている。ぼくは落ちている。肺の中の空気が押し出される。
 (再び一呼吸おいて)ぼくは落ちていく。」

 BGM、終わり。暗転。



2.

 部屋の中。ベッドに寝ている覚。叫び声をあげながら、上半身をはねおこす。凍り付いたように動きを止め、あたりを見まわし、ためいきをつく。

覚「また……あの夢……。」

 頭を振ってベッドから降りる。

覚「(部屋の中を歩きまわりながら)『飛び降りたい』なんて思ったことはないさ。高いところは好きじゃない。……恐いんだ。その恐れが夢に出てきている? だとすれば、その恐怖心を克服するまで、ぼくはずっと夢に苦しめられ続けるのか?」

 ベッドに腰を下ろす。頭を抱える。ふと頭を上げ、枕元に手を伸ばして折り畳み式のナイフを手に取る。

覚「(手の中のナイフを見つめて)父さん……ぼくはどうしたらいい? 父さんは、飛び降りたとき恐くなかったの?」

 部屋の外から、声。
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