木村に100円返しにいく話
木村に100円返しにいく話

     柴田直也 ― 木村の友人の男性、家は貧乏
     坂本加奈子 ― 木村の友人の女性、家は金もち


  第1場(それぞれの家)

       舞台上手側にスポット
       柴田が部屋の掃除をしている
       汚いものが出てきたり、懐かしいものが出てきたりする仕草

柴田 よいしょっと。……えーっと、これはこの引き出しにしまっておいて、と。うわっ、なん
   だこれ、きったねーな、いつから有るんだよ。たまに掃除すると変なモンばっかり出てく
   るよなぁ、お、このマンガ、懐かしい、こんなとこに有ったのかぁ。

       マンガの隙間に紙切れが一枚挟まっている
       柴田は紙切れを取り出す

柴田 ん、なんだこれ……子供の字だな、えーっと、7月6日、金曜日。木村に百円借りた……
   どういうことだ?木村、百円……

       柴田、しばらく紙を見て考える
       柴田、何かを思い出した様子で

柴田 ああ、そうか、小学生の頃だ。木村から百円借りて、それで……オレ、これまだ返してな
   い?うん、そうだ、まだ返してないな。

       間

柴田 いや、別にわざと返さなかったわけじゃないんだ。これ書いた時は覚えてた。うん、しば
   らくずっと気にしてた、返さないとなぁ、って。返そう返そうとは思ってたんだよ、それ
   が、まあなんか色々有って、たぶん勉強とか忙しくて、そしたらいつの間にか小学校卒業
   してて、それで返しそびれたんだ。

       柴田、少し落ち着いて

柴田 ……返した方が……良いよな。うん、返さないと。そりゃあオレも木村ももう二十歳だか
   ら、百円なんて気にしてないと思うけど、こういうのはきっちりしておかないとな、うん。

       柴田、紙をポケットにしまう
       柴田、携帯電話を取り出すが、ふと気づく

柴田 ……あ、オレ木村の連絡先知らねーや。そりゃそうだよな、小学生の頃っていったらまだ
   携帯電話なんて持ってなかったし。小学校の同級生で携帯の連絡先知ってるヤツなんてほ
   とんど居ねーぞ。

       柴田、携帯電話をいじる

柴田 あ、そうだ、坂本。あいつなら木村の連絡先知ってるかも。

       柴田、携帯電話で電話をかける
       舞台下手側にスポット
       舞台下手から坂本登場
       携帯電話の着信音が鳴る
       坂本、気づいて携帯を取る

坂本 はい。
柴田 おお、坂本、久しぶり。
坂本 久しぶりね、柴田くん。
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