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時渡り

あたしの棲み処は風の中

　　　時渡り　　〜あたしの棲み処は風の中〜

ワタリ………大人になって死んだ希。時渡りとなって時空を超えて渉に纏わる過去を変え
　　　　　　ようとする。
希(ノゾミ)…小学校六年生の時のワタリ。渉と幼馴染。
渉(ワタル)…小学校六年生。希とは幼馴染であり、愛し合う関係でいる。何者かに殺害さ
　　　　　　れ、小学生卒業後の未来は無い。
雄哉…………希の兄。高校二年生。
奈津紀………渉の姉。高校二年生。雄哉に恋心を抱いている。
豊……………希と渉のクラスメイト。
春菜…………希と渉のクラスメイト。
時渡り………２５歳で亡くなった男。時渡りとして時空に留まり続けている。

　　　　　　　舞台中央に佇む女性、ワタリがうっすらと目を開く
　　　　　　　辺りは無表情の人物たちが後ろに腕組みをして立っている

ワタリ　　　ここは…どこ。
雄哉　　　　２００９年１２月２４日、日本時間午後１時２３分、死亡。享年２６歳、鈴
　　　　　　木希の審判を行う。
奈津紀　　　死亡理由は、交通事故。信号無視をした乗用車との衝突が原因。
ワタリ　　　そうだ……急に車が私に迫ってきて、それで…。
雄哉　　　　生存中の犯罪件数は無し。
春菜　　　　では、そなたの死後は二つの道からひとつを選択せよ。
ワタリ　　　二つの道？
豊　　　　　さよう、一つ目の道、それは
全員　　　　天国
豊　　　　　極楽浄土行き。死者が何不自由無く暮らせるのだ。
ワタリ　　　二つ目の道は？
雄哉　　　　二つ目の道、それは
全員　　　　時渡り
雄哉　　　　時渡りとして時空を彷徨う選択。
ワタリ　　　時渡り？
豊　　　　　時渡り、それは過去、現在、未来、時空を越えて渡り歩ける者である。
ワタリ　　　過去を変えることが出来るんですか？
奈津紀　　　可能だが条件がある。
春菜　　　　時渡りは一切人や物に触れることは出来ない。姿を見せることも不可能であ
　　　　　　る。唯一それらが可能になるのは、過去の自分にとりついたときのみ。
奈津紀　　　しかし、とりつく時間は限られる。とりついたり時渡りをすれば時渡りとし
　　　　　　しての生命力が削られる。
雄哉　　　　そして、過去を変えた時渡りの宿命は

　　　　　　　渉が現れる
　　　　　　　その瞬間、審判員の声がかき消される

渉　　　　　希、もう一度僕に会いにおいで。
ワタリ　　　構いません。私を、時渡りにしてください。

　　　　　　　冥界の審判たちが後ろに組んでいた手を前に出し、
　　　　　　　所持していた時計を現す
　　　　　　　渉が去る
　　　　　　　風が強く吹く音がする
　　　　　　　時空間をワタリが駆け抜ける

春菜　　　２００９年１月１日。
ワタリ　　違う、もっと前。
豊　　　　２００８年１０月３日。
ワタリ　　もっとよ。もっと昔。

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