時薬
ときぐすり
時薬 〈ときぐすり〉
劇団89314
作 樋栄 邦直
2008年度 熱闘三分間劇場参加作品 2月10日(日)
幕が上がる
舞台中央、わずかに明かりがつく
妹、携帯電話を持っている
幾度となく発信音が続いている…
発信音が切れる。
妹携帯電話を閉じる。
妹、左手のリングを見つめる。
ゆっくりと、リングを外す。
リングをテーブルにそっと置く。
玄関のピンポンが鳴る
舞台明るくなる
妹のアパートの一室
姉登場
姉 不用心ね。玄関開いていたわよ。
はい!!お土産。トロワのケーキ。おいしいわよ!
妹イスに腰掛ける。
姉 仕事どう? 相変わらずいそがしい? お母さん寂しがっていたわよ。ぜ
んぜん連絡くれないし、電話してもいつも居ないって。
妹 (妹正面を向いたまま)……。お母さん、その後どう?
姉 大丈夫。もう落ち着いたわよ。安心して。
妹 ごめんね…手術の時…行けなくて。…そのあとも、お姉ちゃんにばかりお願
いして。
姉 いいのよ。親孝行できるチャンスだわ!!
妹 今人手が足りなくて、どうしても仕事を抜けられないの。
姉 アンタ。大切な仕事を任されているんだから、頑張ってね。そう言えばお
母さん、手術の後も腰が痛むって、ものすごい量の薬飲んでたわよ。
妹 ああ鎮痛剤ね。あれは痛みを取るだけ。痛みは取れるけど、一時しのぎ。
本質的に腰が治るわけではないの。
姉 え!そうなの?
妹 焦らずに、時間をかけて、ちゃんと治すように伝えておいて。
姉 あんた薬剤師なんだから自分で言いなさいよ。
姉テーブルの指輪に気付く。
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