「霖雨の門」
羅生門異聞・・5人バージョン
「霖雨の門・・羅生門異聞」5人バージョン
原作 芥川龍之介『羅生門』
結城 翼 作
★登場人物
男・・・・・・・・
女・・・・・・・・
若い女の死体・・・
子供の死体・・・・
若い男の死体・・・
その他死体役・・・舞台転換等必要に応じてあれば可。
#1プロローグ 群盗
昔、一つの時代がゆっくりと崩壊していったある頃。
雨がすすり泣くように降っている春の都。
荒れ果てたそのはずれに、うっそりと立つ大きな門があった。黄昏どきともなると、もはや誰も通るものはなく、あたりにはや せさらばえた野犬が食い散らした行き倒れの死体が幾つか恨めしげに横たわっている。
雨はいつやむともなく、しんねりと止めどもなく降り続いている。寒さが雨とともに身体に忍び寄る。
若い男がいた。男は門の下で所在なげに雨宿りをしている。
あたりは雨に白くけぶり折しもどうやら黄昏時、薄暗くなっていく。
何かに男がおびえて、門の柱の影に隠れる。
女の悲鳴。
雨音が高くなる中、群盗に追い立てられて女が転がり込むが、追いかけてきた群盗に無惨にも切られて倒れる。
男は、ますます身を縮めて隠れて様子を見る。
群盗たちは死体を抜き身のまま探り、何かを取り出し、合図をして風のように去る。
間。雨音だけが大きくなる。
死体を見ている。
笛の音が響く。
ぎくっとした様子で再び隠れる。
#2 髪の毛を抜く女
歌いながら女が入ってくる。
女は、死体に近寄ると黒い髪を一本一本抜き取ってはつぶつぶと歌う、ぼろ布ともみまがう衣服をまとった女。若くも見えるし 老婆のようでもある。
髪の毛はもう、一束ほども女の手にあった。
女 :かわらすずめに参らせそろ。かわらすずめに参らせそろ。花の雨なら二条の殿と、ひいな祭りに参らせそろ。
ふと、手を休める。
辺りをうかがい。
また、髪の毛を一つ抜き取った。
女 :ほんにようふること。こんなに降っては、お前様もすんぐ腐ってしまうなあ。
笑って。
女 :腐ったところで、文句も言うまいが。
頭を振って。
女 :臭くてたまらんなるでなあ。どれ。
と、ごろんと身体を動かした。
弾みで、カッと見開いた目が露わになる。
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